なんで貴方だったんだろう。
貴方が何故死ななければいけないのだろう。
ああ・・・無情なる運命に静かに涙を流した。






閉ざされた世界でまた僕等は巡り会う







「辰伶。月が綺麗だね。」
「そうだな。」

欠けることなく満ちた月は日の光と同じぐらい眩かった。
かくも儚き幻想夜の中、私達は立ちつくしていた。
何故、彼でなければいけなかったのだろうか?
彼が死の病を発病してから私はずっと思ってきた。
とても浅ましいけれどこの人ではない誰かだったらよかったのに・・・と。
そんな思いが心を満たせど彼の病は進行し続けた。
時は刻一刻となくなり、今日、彼はこの世から居なくなる。
最後の夜、私は泣かないと決めた。
彼の為にも笑顔で送ると。
それでも込み上げてくる深い悲愴。

「辰伶・・・きっとまた逢えるよね・・・・?」

その言葉に彼は静かに私をその腕に収めた。

「ああ・・・いくら歳月を重ねようとも忘れない。必ずまた逢える。」

その言葉に深い愛を感じて私は目頭が熱くなる。
それでも笑顔を浮かべて私は彼の胸の中で頷いた。

「私も、忘れない・・・再び逢って辰伶と一緒に生きたい。」
「ありがとう・・・。」

彼は静かに口付けを落としていく。
額、目元、頬、そして、唇。
重なり合い深く刻むような接吻を交わす。
深く深く溶けるほどに深く。
一層、このまま一緒に溶けてしまえたらいいのに。
そう願った。
私にとって貴方の居ない世界は生きる価値さえなくて。
だから、一緒に溶けて消えてしまいたいと思った。
貴方の腕の中で。
そう思っていたら辰伶の腕が急に緩んだ。
私は思わず顔を上げて彼を見た。
体が淡い光を放っている。

「どうやらもう、別れの時のようだ。」
「辰伶っ・・・・!!」

私は彼の離れていく身体を掴もうとする。
けれど、もうそれは叶わなくて・・・
それを思い知った私は悲しみを堪えて笑いを浮かべた。
頬には一筋雫が流れていたけれどそれさえ気にせず。
ただ、彼を見詰めて。
辰伶を見詰めて笑った。

「愛してるよ・・・ずっとずっと逢えるの待ってるよ。大好きだよ。辰伶。」

私は上手く笑えているだろうか?
彼の好きだった笑顔を浮かべれているのだろうか?
そんな不安が過ぎるけどそれを打ち消すように彼が柔らかな笑みを浮かべた。

「俺も愛している・・・それではな・・・必ず再び逢いに行くから・・・」

そして、彼はゆっくりと瞳を閉じた。
それと同時に彼は光を一際放ち、ゆっくりと消えていった。
私はその場に崩れた。

「辰・・・伶・・・・っっ!!!」

ただ、静かに私は涙を流し、光となった彼を思い、空を見上げた。
貴方がいない世界で私は貴方への変わらぬ思いを抱き、約束を胸に生きた。
貴方の姿を幻を色のない世界で求めながらも生きた。
そして、貴方の居なくなった一年後。
私は、同じ病で光となってこの世を去った。




―――そして、幾多の遙かな時を越え、私達はまた出逢う。


―20××年 東京―



「綺麗な満月・・・」

ネオンさえも負けてしまうほど眩い光を放つ満月の夜。
一人、夜道を歩いていた。
確かに綺麗で美しいその月を見ているととても悲しく儚い想いが過ぎる。
彼は覚えているだろうか・・・?
前世で交わした悠久の約束。
私は前世の記憶と共に覚えていた。
愛しき彼の者の姿と約束を。
そう思っていると急に衝撃が身体を襲った。

「きゃっ!」
「っ・・と大丈夫か・・・?」

考えに浸り歩いていた為、誰かにぶつかったようだ。
ぶつかった人物に抱きとめられ怪我をすることはなかったが・・・
だが、その前に聞き覚えのある声に私は急いで顔を上げた。

「辰伶・・・・」

そう、長き歳月を経ても変わらぬあの愛おしき姿があったのだ。

・・・本当になんだな・・?」
「覚えていたの・・・?」

まさか覚えていてくれるとは思ってもいなくて私は涙した。
そして、彼の胸へと飛び込んだ。
すると、彼も同じ気持ちなのかあの頃と同じく優しく抱きとめてくれた。

「ああ・・・忘れるはずもない。あの約束。本当に果たせてよかった・・・」

あの戦乱の世の中、骨の髄まで愛し合った者の温もりが今ここにあることに互いに歓喜に打ち震えていた。

「辰伶・・・これからは一緒だよね?ずっと・・・ずっと・・・」
「ああ・・・一緒だ。愛している・・・。」
「私も、あの頃と同じ・・・愛してる・・・」

強く強く互いの想いが運命の糸を繋ぎ、再開させた。
この閉ざされた世界で私達は再び出逢い。
そして、再び愛を紡ぎだす。
それは、永久に続く絆・・・