任務の帰りに唐突に心を支配する罪悪感。
これが償いなのだと自身に言い聞かせて
それを払拭しようとする己がまた更に愚かしいと自嘲すら浮かぶ。
血に汚れ、罪に汚れ、自分は何処まで溺れて永劫に近しい日々を生きるのだろうかと心で嘆く。
だが、幾ら言葉を並べても結局、贖罪なのだと償いなのだと己を戒め生きる以外道などない。
「本当にお前は不器用だね。アベル」
「・・・っ!?、さん」
心の内を見透かされた言葉に思わず肩を上下に揺らし、慌てて振り返ればそこには見知った女性が居た。
人とはまた違う雰囲気を纏った・・・否、人ではないであろう彼女が。
Preghiera
「いつも急に出てきて心臓に悪いです」
「了承を取るにもどちらにせよ声を掛けるものだ。結局は同じ事であろう?」
努めて明るく返事をすれば彼女も微笑んで穏やかに返す。
金色の瞳と銀色の髪が月光に照らされて輝く姿は神々しく美しい。
まるで絵の中の女神が飛び出して現れた様な錯覚を覚えるほどに。
「今日はどうしたんだい?アベル。また、悲しそうな苦しそうな顔をして。
また自分の罪に苦しんでいたのかい?自分を責めていたのかい?愛しくも哀しい子アベル」
「・・・私を子供扱いするのは貴女ぐらいですよ。本当に」
何も語らずとも本当は判っている癖にわざと問い掛けてくる。
でも、それを不快に思わないのは彼女が真に自分の事を心配して気に掛けてくれているのだと判るからだ。
私は問いに返答は返さずにそっと近くにあった岩に腰を掛けた。
「アベル」
素直に返事を返さない時は何も語るつもりが無い事を知っている彼女はそっと近寄て両頬を手で挟んできた。
触れる指先は真白に近しく、シルクの様な滑らかな指先がするりと頬を撫ぜる。
壊れ物を扱う様に果てしなく優しく撫ぜられて心が穏やかになっていくのを感じた。
他の誰かにされてもきっとそうなる事はなく、きっと彼女だからこそ出来る事なのだろう。
ただ、一心に人を想う気持ちだけで生きる彼女だからこそ。
「・・・ありがとうございます。それだけで充分です。
だから、貴女もそんな顔をしないでください。貴女が苦しむ必要はないんですから」
苦しげに辛そうに伏せられた瞳の奥で彼女が何を思っているのか何となくだが判った。
彼女はきっと何も出来ない自分の歯痒さに苦しんでいるのだと直ぐに理解できた。
結局、私も彼女も似ているのだ。
ただ、違うのは背負う罪があるかないか。
その一点のみだ。
自分の頬に触れていた手にそっと自身の手を重ねて祈る様に瞳を閉じた。
そして、ゆっくりと瞳を開けるとそっとその手を外して立ち上がる。
「さて、そろそろ行きます。また、カテリーナさんに怒られちゃいますから」
また何時もの様に笑える事を確認する様にそう告げれば彼女は困った様に微笑んだ。
複雑なのだろう。
無理をしているのだと彼女も気づいているだろうから。
だけど、自分が選んだ道なのだから立ち止まっては居られない。
「アベル。いってらっしゃい」
「・・・いってきます。さん」
何も言わないのは彼女の最大の優しさ。
それに応えるべく私はにっこり微笑んで再び歩き出した。
贖罪の果て無き道を。
「アベル・・・どうか貴方の行く先に幸福があらん事を」
刹那の祈り。
(祈り見守る事しか出来ぬ神に見守られ漆黒の神父は歩み続ける。)
(その先にあるのが幸福であろうと無かろうと。)
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