付き合ってもう三ヶ月になる。
先輩が卒業を向かえたあの日。
僕が想いを告げて結ばれたあの日から三ヶ月。
そんな僕が抱いている一つの不満。
君からの二度目の『スキ』が聞けない事。






砂糖菓子のように甘く溶けるような言葉を







「ショウくん、部活お疲れ様」
さん!」

部活を終え、身体に残る疲労感を抱えながら校門まで向かうとそこにはあの人の姿があった。
誰よりも美しい清らかな優しい人。
僕の本当の姿を知っていて受け入れてくれて居場所になってくれる大切な人。

さんの姿を見つけた僕は慌てて走り出し彼女の傍に駆け寄った。

「どうしたんですか?学校の方に来るなんて珍しいですね」
「ん?そうかな?たまにはね。迎えに来たかったのショウくんを」

その言葉にすぐ舞い上がってしまう自分が居て少し恥ずかしさと照れくささが込み上げてきた。
それを誤魔化すように僕は意地悪な顔を浮かべて言った。

「へぇ?そんなこと言って本当は僕に会いたくて仕方がなかったんでしょ?」
「ま、まあ、それもあるけどね?」
「照れちゃって可愛い〜」

からかってそう言うと少し膨れて拗ねるさん。
その姿が愛らしくて頬にキスを落としてやった。
今では僕のほうが高くなった為、少し屈んで唇を近付けて。
なんだか学校で会ったせいか昔では考えられないな今の状況はなんて思った。

「もう!人前!」
「あはは!いいでしょ?別に」
「よくない!本当にもう!」

恥ずかしそうにするさんの手を引いて歩みを進める。

「そう怒らないでよ?さんが可愛いのがいけないんだから」
「そ、そういうことを直球で言う!?
ショウくんがたらしになっていてるみたいで最近不安だわ」
「大丈夫だよ。さんの前だけだから」
「それ、全然よくない!!」

恥ずかしげも無くそう言ってみれば再び林檎の様に赤く染まる彼女の表情。
本当にこれほどころころ表情が変わる人もいるものなのだなぁなんてしみじみ思った。
こんなに幸せな日々は今まで無かったと思う。
僕にとって本当の自分を出せるのは彼女の前だけで。
彼女が居なければ僕は壊れていたかもしれない。
だから、この状況で満足。
そう、思っていた。
だけど、人間という生き物は貪欲でだんだんと欲望が込み上げてくるものなのだ。
僕の欲望は彼女にもっと愛されたいということ。
これ以上何を望むのだと言われてもそれしか言いようが無い。
彼女に愛されて、彼女の全てを手に入れてしまいたい。
そう望んでいるのだ。
強欲だと思う。
けれど、求めてしまう。
それだけは変えられないと思った。
そして、ただ一つだけ願う。
この想いが彼女を壊してしまわぬようにと。
だけど、言ってしまった彼女に。

「ねぇ?さん。僕のお願い聞いてもらえますか?」
「何・・・?いきなりお願いだなんて・・・」

言ってはダメだと止める自分がいるけど止まらなかった。

さんから好きだとあの日から一度も言ってもらってない。
僕は・・・さんからの言葉が欲しい。何よりもその口から紡がれる言葉が」
「ショウ・・・くん・・・?えっと・・・」

戸惑う彼女。
彼女の表情には困惑と恥ずかしさが込み上げていた。
彼女の性格からして言いづらいというのはあるかもしれない。
けれど、僕はどうしても言って欲しかった。
きっと彼女から紡がれる言葉を聞いて安心したかったのだ。
僕の居場所はここにあるのだと実感したかったのだ。
そう思っていると彼女の手が僕の頬に伸びてきた。
そっと触れて感じた彼女の優しい温もり。

さん・・・」
「なんで、そんな泣きそうな顔をしているの?」

放たれた言葉に僕は驚き目を見開いた。
泣きそうな顔・・・?
ああ、やっぱり僕は彼女の前では感情さえコントロールできなくなるみたいだ。
全てを受け入れて欲しくて気持ちを押し付けて最低だ。
けど、彼女はそんな僕の心情を理解したかのようにふと僕の胸に飛び込んできた。

・・・さん・・・?」
「ごめんね?気付いて上げられなくて。というか私もちゃんと言うべきだったんだよね。
言葉にしなくてもいいと思ってた。でも、それでも納得出来ない事ってたくさんあるよね?」

謝る彼女を見て僕はゆっくりと彼女の背に腕を回した。
トクントクンとリズムよく刻まれる鼓動。
今、こんなにも近くにいるのだと実感する。

さん、僕は・・・さんが好きでたまらない」

一言一言噛みしめるように呟く。
するとさんもそれをしっかりと受け止めてくれるように頷く。

「愛してるんだ。誰よりもだから・・・だから・・・
貪欲になっていった。貴方から言葉が欲しいと思うようになった」
「うん」
「やっぱり僕はまだまだ子供で未熟だからどうしても言葉欲しいんだ・・・」

僕がそう切なげに儚げに告げると彼女は安堵したような笑みを浮かべて答えた。

「そっか。なら一緒だね?」
「え・・・?」
「私も同じだよ。まだ子供で大人になりきれなくて。言葉が欲しくて、全てが欲しくて。
貪欲になって強欲になって歯止めがいつか効かなくなるだろうと思ってた。
だって、私もショウくんのこと好きだし、愛してるから。だれよりも大切な人だから」

嗚呼、彼女のその言葉は僕の心に沁み渡り、激しく波打っていた水面が静まるように冷静さを取り戻させる。
今までずっと空白になっていたパズルのピースが埋まったみたいに。
彼女の言葉はまるで魔法のようだった。

「一緒だね・・・僕も同じだ・・・」
「そう、同じ。だからこれからはもっと言葉にしたりして伝えよう?
私はショウくんが望むなら何度だって口にするよ。好きだって愛してるって。ちょっと恥ずかしいけどね?」

苦笑して微笑む彼女を見て「そうだね」と同じように笑った。
最低だと思ってた。
この気持ち。
だけど、彼女も抱くこの気持ちを今は醜悪だとは思わない。
とても綺麗なものだとさえ感じる。
彼女の言葉は魔法みたいでどこまでも世界を美しく塗り変える。
想いだって一緒で。
彼女の一言で色鮮やかに美しくなる。

「ねぇ?さん。キスしていい?」
「・・・聞くかなぁ?普通・・・もう!いいよ」

怒った素振りを見せるけど優しく微笑んでいるじゃあ意味が無い。
僕はそっと彼女の頬に手を当てて静かに唇を重ねた。
たくさんの想いを込めて。
そして、唇が離れて貴方と視線が交わる瞬間。
僕は満面の笑みを浮かべてこういった。

「愛してるよ。さん」

あの日からだんだん増す想いを込めて僕は愛を囁いた。
それは砂糖菓子のように甘く溶けるような言葉。