貴女のその蒼があの天高く輝く蒼穹だと思った。
とてもとても綺麗で澄んでいて、どんな宝石よりも美しかった。
貴女が居たから今の自分が居る。
貴女が居なければ今の自分は存在しない。
むしろ自分という存在自体が崩壊していただろう。
救済の蒼
「アッシュ」
貴女が呼ぶとこの忌まわしき新たな名ですら美しく愛おしいものに感じれた。
「・・・様」
「あははっ!なんだそれは・・・
役職に就いたからと言ってそんなに改めなくてもいい。
いつも通りにしろ。アッシュ。全く変なところが律儀な奴だ」
俺がルークからアッシュへと変わってから数年が経ったある日。
能力を認められてようやく貴女の下で働く事となった。
主席総長の貴女の役にようやく立てる。
そう心から喜んだ日だった。
「・・・。何しに来たんだ?」
「おめでとう。今までよく頑張ってきたなって褒めに来た」
貴女はそう笑うと頭をくしゃくしゃと撫で回す。
それに顔を顰めるが本人は知らぬ顔。
しばらくして手を離すと彼女は真摯に尋ねてきた。
「アッシュ。お前は、憎いか?今、お前の居場所に居るルークが?」
その質問に俺は息を呑んだ。
俺の居場所を取ったレプリカ。
憎いと言われれば憎いのかもしれない。
だが、明確な答えは無かった。
何故ならば。
あいつが居なければ目の前の人にも会えなかったから。
俺は、きっと狭い世界で生きていただろうから。
相反する想いが入り混じる。
すると、彼女はそれを悟ったようにぽんとまた頭に手を置いてきた。
「まあ、すぐに答えは出さなくていい。まだ時間はあるからな」
「・・・?時間・・・?」
彼女の不思議な言い回しに俺は尋ね返す。
すると、彼女は少し寂しげな表情を浮かべた。
「いや・・・お前は私よりも若いし、まだまだ長い時があるだろうって意味だ」
「・・・も十分若いだろうが」
「それでもお前達よりは先に逝くさ。ともかくゆっくり考えろという事だ。
ただ、お前がアッシュになったから全てを失くしたわけじゃないんだぞ?
お前を大切に想う者はここに少なくとも一人は居るんだから。わかったな?」
彼女の言葉に俺は何か温かな思いが込みあがってくる。
それをぐっと飲んでそっと小さな声で告げた。
「ありがとう・・・」
その言葉に彼女は目を見開いたが「ああ」とすぐに笑った。
彼女のその笑顔が永劫に続くように。
俺はその為に戦う事を決意した。
俺にとって彼女は唯一無二だ。
あの日から。
あの日からずっと・・・
「おい。そこの」
「・・・・!」
いきなり声を掛けられて連れてこられたばかりの俺は敵意を剥き出しにしてその声の主を睨んだ。
だが、そんな俺の様子を気にも留めずに彼女は微笑んだ。
まるで慈愛と慈悲に溢れた女神のように。
優しく温かなその笑みに俺は思わず見惚れたのだった。
「お前が、アッシュか」
「・・・不本意だがな」
そう答えれば彼女は少し悲しげに笑った。
「すまないな。私の力が及ばぬばかりにお前の居場所を失わせてしまって」
そして、そっとしゃがみ込んだ彼女は俺を優しく優しく抱きしめた。
その抱擁に俺の瞳からは自然と涙が溢れた。
泣く事など絶対しないと誓っていたのに。
どうしてもどうしても抑え切れなかった。
それはきっと彼女が心から謝罪し、慈しみ、労わってくれたから。
彼女は抱きしめたまま告げた。
「ここでお前はこれから暮らす事になるだろう。私に力が無いばかりにお前を帰してやる事が出来ない」
「貴女の、せいではないのだろう。それだけはわかる」
「いいや。私の力不足も原因だ。だから、お前の為に私はお前が生きていく上で必要な知識を全て教えよう」
彼女はそう言って身体を離すと頭を優しく撫でた。
蒼穹の瞳がきらきらと輝き光る。
「アッシュ。今日から私がお前の家族だ」
そう告げて俺に居場所を作ってくれた。
ダアトの中が俺の居場所ではないんだ。
俺の居場所は貴女の傍。
貴女が作ってくれた。
大切な第二の場所。
「私は、。神託の盾の主席総長だ」
「・・・」
そっと教えられた名を紡ぐ。
すると、彼女は優しく微笑む。
それが、初めてここで見た救済の光だった。
今も変わらないその瞳の蒼穹もあの時誓った想いも。
(ただ、一つ変わったのは恋情を帯びた想いだけ。)
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