「敦盛、一人で何をしているんだ?」

凛と鈴の音のような声が響いて私は慌てて振り返った。
そこには月光に照らされた応龍の神子殿の姿があった。






貴方が与える光







「神子・・・!その・・・「私は神子じゃない。だ」」

しっかりと訂正されて私は慌てて「殿・・・」と言い直した。
殿はそれに満足したのか笑顔を浮かべて私の隣に腰を下ろした。

「で、何をしているんだ?皆、宴で盛り上がっているというのに」
「私が居るべき場所ではない。私は・・・」
「怨霊だから、か?」
「!あ、ああ」

全てを見抜いているように彼女が先に言葉を紡ぐものだから私は驚く。
そう、この人はいつもそうなのだ。
全てを知り尽くしているような。
そんな錯覚を覚えるほど彼女は全てを知り尽くしていた。
私の事も一瞬で怨霊と見抜いたり、幾度となく彼女には驚かされる。

「敦盛」
「なんだ?」
「敦盛は敦盛だろう?怨霊であろうとなかろうと」

ただ、思うがままに告げる彼女の言葉は確かに正論だ。
他の皆も私が怨霊だからと気にした素振りは見せない。
私を認め、信頼してくれているとわかっている。
だけど、それでも私の心はどこか引け目を感じてしまうのだ。

「しかし、私が怨霊である事には変わりはない。
そして、同族を裏切った謀反人である事も。どこまでも罪深い事には変わりない」
「それがどうした。それがお前を受け入れない理由にはならない。
現に私は敦盛を愛おしく思うし、信頼し、頼れる仲間だと思う」

嬉しい言葉に思わず笑みを浮かべそうになる。
しかし、彼女の言葉にふと思った。

「あ、あの、愛おしい・・・・とは・・・?」
「あ。言ってしまった。まあ、いいか。事実だし」
殿!?」

この人は重大なことをさらりと告げた。
私と殿は決して特別な関係な訳ではないのだ。
ただの仲間。
そう思っていたからこそ私は彼女への想いを隠そうと心に秘めていた。
なのに彼女はこうもあっさりと私と同じ想いだと告げたのだ。
私は思わずどうしていいかわからなくなり困惑する。

「おーい?敦盛?」
「!!す、すまない」
「いや、いいけど。そんなに嫌だったか?」
「ち、違う!!むしろ逆で戸惑って!!!あ・・・・」

余りに悲しい表情を浮かべるものだから立ち上がって捲くし立てるようにそう告げた。
そして、事の重大さに気づき赤くなる顔を隠すようにしてしゃがみ込んだ。

「そう、か。敦盛も私のことを愛おしいと思ってくれていたのか」
「え・・・・?」

ふと彼女に違和感を感じて彼女を見てみるとそこにはいつもと違う表情を浮かべる姿が。
顔を朱に染めて恥じらう姿。
いつも凛と戦いに向かいどこまでも高みにいる人物ではない。
ただ、同じ年の少女の姿だった。
初めて垣間見た彼女のその姿に私はまた赤くなる。
そして、心拍数があがるのを感じた。

殿・・・顔が赤い」

手をそっと伸ばして彼女の頬に触れる。
ぴくりと彼女は肩を震わせ、
瞳を閉じたががゆっくりと瞳を開きだし私を見つめた。
微かに潤んだ瞳が艶めかしく美しかった。

「敦盛・・・手を、離して・・・」

今この人はいつも私が感じるような戸惑いを感じてくれている。
そう思うと嬉しくなった。

「嫌だ。もっと殿を感じていたい」
「敦盛っっ!悪ふざけが過ぎるぞっ・・・!」
「悪ふざけなどではない。本心だ」

言い切ってみれば殿は押し黙ってしまった。
私はそれをよしとして彼女の頬に再び触れた。
熱を帯びた朱色の頬をそっと撫ぜる。
絹でも触っているかのような感触に夢心地になりながら。
すると、殿はそのまま私の胸へと倒れてきた。

「っつ!!殿っ!?」
「・・・・敦盛が悪い。私を苛めてくるから」

拗ねた様にそう告げると彼女は私の頬に触れ返してきた。
そっと触れ合った指先から熱が帯びる。
ああ、確かにこれは恥ずかしいかもしれないと思った。

「敦盛・・・恥ずかしいだろ?」
「あ、ああ・・・」
「私も恥ずかしかった。一緒だ。
なんら人と変わりない。敦盛が怨霊であることなど些細なこと。
だから、もう自分を卑下しないでちゃんと胸を張って生きて?」 

彼女は真剣に訴えるような視線で射抜く。
どこまでも彼女は私を想い、労わってくれている。
慈悲と慈愛に満ちた彼女のほほ笑みはまるで御仏のようであった。
これが龍神に加護されし神子というものだろうか?
そう、最初は思っていた。
けれど、これは神子などとは関係ない。
彼女自身の光なのだ。
彼女自身の清らかさが私を浄化する。
彼女の存在自体が清く美しい光なのだ。
神子ではなく彼女が。

殿・・・・」
「ずっと傍にいてくれ。敦盛」

懇願する彼女の視線に私は断れるはずも無かった。
そして、私自身の願いも同じなのだから断る理由もない。

殿がそう望むのならば・・・」

そうは言ったけれど本当は私自身が傍に居たい。
貴方の傍で幸せを願いたい。



十六夜の月の下で微笑む貴方の笑顔に希う、貴方との永遠の幸せを。