果てしない群青の空の下、真紅に染まる景色。
幾度も繰り返される運命の中、鈍ってしまった罪悪感。
私は、もう人ではなく、しがない殺人鬼なのだと自覚してしまう。
酷く酷く苦しくなり、目を細めれば必ず私の視界には紫暗の瞳が映る。






雨降りの心に紫陽花







人を斬る事に覚悟はあった。
確かに、この胸に息づいている覚悟と言う名の光を今も絶やす事はない。
それでも人を殺す度にその業を背負い続ける度に感じる重苦しい感情。
例え、それが大切なものを守る為であろうとも関係なく、生きる為に殺し、守る為に殺す度に生まれ出でる。
人の歴史は戦いにより生まれるものなのだから致し方ないと言えどもやはり私は脆弱で酷く心を締め付けられる。
出来るだけ敵を視界に入れずに記憶に刻まずに相手を殺そうと目を細める。
その度に、いつも何時も私の視界にちらつくのは紫暗だった。
鉄錆の薫りを雨が削ぎ落とす中、勝ち鬨の声を遠くに聞き、私は空を見上げる。
贖罪を乞うように。
そして、瞳を伏せて再び視線を前へと戻すと少し離れた位置に彼は居た。
惑いと不安を抱いた瞳を真っ直ぐに私に向けて。

「敦盛、まだ戻ってなかったのか?」
を待っていた。どこか様子がおかしいと思って」

控えめに、だが、確かに告げる彼の言葉に私は曖昧な笑みを浮かべる。
砂浜を一歩一歩踏み締めて鳴る音を聞きながら彼の前まで立つ。
揺らぎない瞳の光が私に注がれて思わず視線を逸らしたくなる衝動に襲われる。
初見した時の迷いなどもう彼にはなく、成長した一人の立派な八葉としての覚悟がある。
中途半端な私とは違い、白龍の神子を守る矛として盾としての覚悟がある。
そう想えば何だかあの子が酷く羨ましく思えた。
私には龍も八葉も居ない。
一人で骸の上を歩き、望む未来の為に進むだけの孤独な道だ。
それが彼らの為になるならばと想い、幾度も壊れそうな心に叱咤し、ここに居る。
だが、それも苦しいのだ、辛いのだ。
だから、不意な優しさに私は壊れそうになる。
吐露したいと願ってしまう。
この心の内を。

・・・?」
「嗚呼、すまない。早く行かねばな。望美達が不安がってしまうな」

顔を背けて光が灯る本陣へ戻ろうと歩みだそうとするが足が動く事はなかった。
溢れ出す沢山の雫によって震える足はその場に縫い付けられた様に動かなくなった。
堰を切ってしまえばそれは止まる事を知らず湧き出す。
後ろに居る敦盛を困らせるだけだと判っていても止まりはしない。
不自然に足を止めた私の横を彼が通り過ぎる筈もなく、彼は私の顔を覗きこんで私の雫を視認した。
それと同時に歪む表情と視界を遮った彼の衣服と温もり。
抱き締められているのだと理解するまでに暫くの時間を要する程に驚くべき事だった。
だが、驚いたのも一瞬、唐突な優しさは私の柵を燃やし尽し、全てを吐露させる。
嗚咽を上げながら泣く私を彼はただ、抱きとめて髪を何度も往復してその白い指先で撫ぜる。
優しく、優しく寄せる漣の様な温もり。
泣き止むまで繰り返されたそれに私は静かに顔を上げた。
どれ程の時が流れたのかは判らない。
数分だったとも数時間だったとも感じられるその時間に私は少しだけ心を軽くした。

「敦盛・・・その・・・」

涙を流した理由をどう説明すべきが迷った。
どの様に説明すればよいのだろうかと。
そんな私の心情を察したのか敦盛はただ微笑んで紡ぐ。

「私はの支えになれるだろうか?人ではないこの呪われた身で」

寂しげに微笑みながらも私を想う気持ちを告げた目の前の敦盛に私は目を見開いた。
幾度の運命を廻る内に記憶はなくとも育った彼の心を感じたからだ。
それは想いもせぬ接触だったがそれでも何も支えなどないと思っていた私にはどこまでも満ち足りた幸福だと言えた。
また涙を流しそうになるのを堪えながら私は彼の胸に顔を埋める。
込上げてくる感情に言葉が紡げずに居たけれど一言だけゆっくりと告げた。

「こんな私の支えになってくれるのか?」

素直になれないなと自嘲しながらも彼はそれを気にする事なく、力強い肯定の意を述べた。
消える事はなくとも彼の人の支えがあるならばまだ歩んでいく事が出来ると思い、ゆっくりと顔を再び上げた。
きっと涙などぐちゃぐちゃで酷い有様だったかもしれない。
だけど、ありのままの自分を敦盛の前でなら曝け出せるとその一言で思えたのだ。
呪われた身と敦盛は言ったけれども私のこの暗く混沌とした感情を打ち消し、浄化した彼はどこまでも清らかで美しい存在だと思った。

「敦盛、今少しこのままで」

そう呟いた私をまた温かく包む其の腕を感じながら瞳を閉じた。
永遠に等しい時間を感じながら。



この幸せが本当に永遠になればと願い乞う。
(それが叶わぬと判っていながらも願うが人の心。)