「宮地君はずるいと思うの」

その言葉は部活の真っ只中に呟かれた。






一色に溺れて、染まれ







頬をやや膨らましてそう呟いた二人だけの弓道部女子部員の一人、に皆、動きを止める。
それは先ほどまで宮地と言い争っていた木ノ瀬も含める面々である。

「と、突然なんなんだ?華美夜」
「だから、宮地君はずるいと思うの」
「だから、何がだ!?」

全く事の真相を話さないに思わず焦れる宮地。
もう一方の木ノ瀬は恋人であるの発言に困惑の色と不機嫌さが見え隠れする。
その様子に三馬鹿トリオの一人、犬飼が呟く。

「おいおい。弓道部内で修羅場かぁ〜?」
「そ、そんな楽しそうに言わないで下さいよぉ。犬飼先輩!」
「そうだよ!それにちゃんは梓君一筋なんだからそんな事にはならないよ!」
「夜久が言うならそうだぞ!」
「白鳥、お前は夜久に同意したいだけだろう。考えてみろよ。これを修羅場と言わなくてなんて言うんだよ」

犬飼の言葉に皆が黙るとそれぞれは再び三人に視線を向ける。
すると、は頬を膨らませたままぼそりと呟いた。

「宮地君はずるいったらずるいの」
「だから、その理由をだな・・・・」
「だって、梓君と二人で仲良くしちゃって二人の雰囲気を作らないで欲しいの!」

衝撃的な叫びが弓道場内に響き渡り、ついに以外が沈黙した。
暫くその沈黙が続くがそれを盛大な犬飼の笑い声が破った。

「ぶはははははっ!華美夜!お前最高だっ!!」
「犬飼君、私は割と本気で言ってるんだけど、何か文句でもある?」
「すいません。ありません」

只ならぬ空気を醸し出したの言葉に全力で謝罪する犬飼。
そんな中、木ノ瀬がに近づくとその身体を抱き締めた。
全く空気を読まない行動に一同が思わずぴたりと動きを止めた。

先輩は本当に可愛いんですから困ります。まさか、宮地先輩に嫉妬するとは思いませんでしたけど」
「だって、宮地君と居る時の梓君、楽しそうだから」

どこがだ!?と心の中で一同が突っ込む。

「でも、僕は先輩と一緒に居る時が一番楽しいんです。だから、心配する必要はありませんよ」

木ノ瀬のその言葉を聴いてもまだ少し不服そうな表情を浮かべる
そんなに対して木ノ瀬はの耳元でこう囁いた。

「なら、部活が終わった後、信じて貰えるまでキスをする事にします。
先輩といる時が一番楽しくて、愛しいんだって事を知ってもらう為に」

甘過ぎるその言葉にの顔からはついに不機嫌な色は消え、薄っすらとその頬を桃色に染めた。
だが、その不機嫌さを別の人間が浮かべているとも二人は知らずに。

「あのさ、木ノ瀬と華美夜。今、部活中だからな。そういうのは後でやれ」

一部始終を見守った犬飼がぽんっと木ノ瀬の肩を叩いてそう告げる。

「すいません。犬飼先輩。あんまりに先輩が可愛かったもので」

悪びれもなくにっこりと微笑む木ノ瀬に犬飼は苦笑を浮かべる。

「いや、男として判らなくもないがよ。ほら、うちには名物堅物鬼の副部長が居るだろ?」

そう犬飼が言った時には既に遅かったようで、月子があっ、と呟くと宮地の怒声が響いた。

「お前ら・・・いい加減にしろっ!!木ノ瀬!今すぐグラウンド走って来い!」
「別に構いませんけど、そんなに僕が先輩に取られたからって厳しく当たらないで下さい」
「なっ!?」

ふざけて木ノ瀬がそう言うと宮地が更に苛立ちを募らせた。
再度、怒声を響かせようとするが、それはによって遮られる。

「宮地君、一度話をつけようか?それとも決闘でもいいけど?」

弓を片手に間合いを詰めるその姿に宮地は思わず慌てて後ずさる。

「待て、!完全な誤解だ!というか木ノ瀬がふざけて言っているだけだと普通分かるだろ!?」
「宮地ー諦めた方がいいと思うぞー今のはたぶん恋は盲目ってやつだ」
「簡単に言うな!、本当に落ち着け!目が笑ってないぞ!」
「何を言ってるのかな?さあ、決着をつけましょう?」

ゆっくりと宮地を追い詰めるを見ながら木ノ瀬はくすりと笑ってグラウンドに向かおうと歩き出した。

「梓君!止めなくていいの?」
「大丈夫ですよ。いざとなったら犬飼先輩が止めますよ。それに・・・」
「それに?」
「いや、僕って愛されてるなぁと思って。じゃあ、宮地先輩ーグラウンド走ってきますね」

満面の笑みを浮かべて木ノ瀬はそう声を掛けて弓道場を後にする。

「こら!木ノ瀬!責任持ってをどうにかしていけ!!」

その後、宮地は用事で遅れてやってきた金久保に命辛々助けられたのだった。