星空さえも今では霞んでしまい。
この世界には腐敗と闇が広がっている。
そんな世界でも残る一筋の光。






腐敗する世界のノアの箱舟







どこまで退屈な毎日。
平和という言葉に溺れた人々は特に何かをするわけでもなく淡々と生きている。
私にとってそれは耐え難い苦痛だった。
だから自らを生と死が隣り合う世界へと自ら足を踏み入れた。
何の躊躇いもなく。
考えてみれば狂気に走った異常者だったのかもしれない。
けれど、決して後悔はしていない。
今でも自ら選んだ道に後悔などないのだから。
そんな私にも大切なものがあった。
私の居場所・・・身を寄せるファミリーだ。
我がファミリーはある意味マフィアの頂点と言っても過言ではない。
名をボンゴレファミリーと言う。
九代目に拾われた私はそこでさまざまなことを教えてもらった。
それは戦う技術ではなく人としての喜びや悲しみといった感情だ。
今までにないその感情に戸惑いはしたものの今となっては良かったと思う。

殿・・・?」

ぼんやりとそんな昔の事を考えていると私が今居た部屋の主が不思議そうにこちらを見た。

「あ、ごめん。ぼーっとしてた」
「いえ、それならよいのですが。何かあったのかと思って心配しました」

マフィアというには年若く純粋無垢なこの少年。
名をバジルという。
私と同じファミリーの一員であり、私の最愛の人と言っても過言ではない。

「本当に何にもないって。しいて言うなら今が幸せだと実感してただけ」
「今が幸せ・・・ですか?」

唐突な一言に疑問を浮かべたバジルがベッドサイドに座り首を傾げた。
そんな可愛い姿を見た私はふふっと笑いながらバジルに抱きついた。

「だって、こんなにも大切な仲間が居て、大切な恋人が居て。私は恵まれているなぁって。
確かにいつも安穏と生きていけはしないけれど。それでも、私は大切な人達の中で生きていけるから幸せだと思ったの」

隠すことなく本心を告げてみればバジルも優しい表情を浮かべ抱き返してくれた。
伝わり合う温もりがひだまりのようで目を細め猫のようにじゃれついた。

「拙者も・・・」

静かに紡がれた声に耳を傾けようと私は身体を起こす。

「ん・・・?」
「拙者も殿と出会えて、こうして恋人になれて同じ時を生きている事がとても幸せです」

偽りのない凛としたその声に私は顔を少し朱に染めた。
嗚呼、本当にこの人は・・・
どうしようもない衝動に駆られてしまう。
私はそっと眠るように瞳を伏せた。
戦いに血塗れても心が深く傷つけられようともこの人が居れば私はきっと強く生きていける。
彼の全てが私に力を与え、彼の全てが私の心を満たしてくれる。
どこまでも私の全てに侵食するこの人をきっと私はもう手放せないのだろう。
彼もそんな風に思ってくれているだろうか?
それならばこれ以上の至福はない。

「バジル、ずっと一緒だよ」

命令とも願いともつかぬその言葉にバジルは何のためらいもなく頷いた。
その色素の薄い髪がキラキラと揺らぎ光る。
私たちは指を絡めて、再びベッドへと倒れこんだ。
そして、互いに優しい日差しの中、優しく、温かな眠りにつくのだった。
貴方はこの世界での唯一。
どうかどうか私をひたすらに幸せという名の一筋の光で照らしていてください。
貴方は私を救うノアの箱舟。