儚く繊細な美貌。
それがいつも不安にさせる。
いつか、消えゆきこの腕の中から居なくなるのではと。






不確実エターナル







彼女がこうして拙者の腕の中で眠っている時ですら不安に思う。
この腕の中から最初から何もなかったように居なくなるのではないかと。
あまりに儚いこの人は本当にそんな錯覚を起こさせるのだ。

殿・・・」

手放す事すら考えられないぐらいにこの人を愛おしく思う拙者は、何よりこの人が居なくなる事が死よりも恐ろしい。
愚かだと人が言おうとも。
それ程までにこの人は大きな存在なのだ。

「バジ・・・ル?」
「すみません。起こしてしまいましたか?」

素肌と素肌が擦れそっと温かくなる。
一糸纏わぬ姿でこうして触れ合っていると一緒に溶け合い混じり合えたならと思う。
そうすれば離れずに済むのにと。
彼女に声をかける最中、そんなことを考える。

「・・・気にしないで。それより、バジル。眠れないの?」
「いえ、眠るのが惜しい気がして。殿があまりに綺麗なので」

眠るのが惜しい気がするのは本当。
でも、本心を言えば彼女が消えてしまいそうで怖いだけだ。
それを知らない彼女はただまだ覚醒しきらない意識の中を漂っている。
だが、段々と覚醒してきたのかふと視線が交わると同時に彼女の雪のように白い手が頬に伸びる。
そっと頬を触れられて驚き目を丸くする。

殿・・・?」
「また、不安げな顔をしてる。いつも、思っていた。
私は、バジルの傍に居る。貴方が望む限りずっと。だから、そんな顔をしないで」

まさか、ここまで確実に言い当てられるとは思わなかった。
触れられた事を驚いたのも束の間に彼女に全てを言い当てられてしまい、瞳を見開く。
ただ、絞り出せたのは苦笑と疑問。

殿は、凄いですね。何故、わかってしまうんですか?」

本当に何故わかってしまうのだろうと思う。
彼女はいつも言い当てる。
ただ、真実をありのままに。
まるで神のように。

「バジルを見ていればわかる。私はバジルをずっと見ているのだから些細な変化だって見逃さない」
殿・・・」
「私は、バジルを一番愛おしく思うから、わかる。ただ、それだけ」

嗚呼、なんて拙者は愚かなのだろう。
そう、思った。
心から。
彼女はどこまでもどこまでも無条件で拙者に無償の愛を注いでいる。
なのに、拙者は不安に駆られて浅ましくも共に滅びたいとすら思った。
どうせ、離れていってしまうならばと。
本当に愚の骨頂だ。

「拙者は・・・愚かでした。貴方が消えてしまう・・・そんな気がして」
「不安は誰でも抱える。それを私が少しでも取り除ければいいのだが」

きゅっと背に手が回されて抱きつかれる。
それに応えるように拙者も抱く腕に力を込める。

「少しだなんて・・・貴方の一言一句が拙者の不安を消し去る。
こんな愚かな拙者の負の感情を貴方の声が言葉が想いが消し去る」
「そう、か」
「ええ、ありがとうございます」
「礼を言われるようなことじゃない」

照れくさそうにそう告げられて思わず愛おしくてその額にキスを落とす。

「いえ、礼を言うべきことです。殿。愛しています。未来永劫」
「・・・私も、愛している。ずっと・・・」

それは不確実なことだけれどそれが全てのような気すらした。
そして、拙者らはどちらからともなくキスを交わし。
その白いシーツの波に消えていった。



(神の一言よりも貴方の一言のほうがどんなに救われることだろう。)