夜は嫌いだ。
闇に置き去りにされて孤独になった気分になる。






夢魔を消し去る光







「夢・・・か」

夜は嫌いだ。
嫌な過去を思い出させる。
夢に見て闇に囚われ孤独になる。
そんな事は決してないのに。
人とは脆く弱いから。
力を持とうと心は弱いから。
私は立ち上がると着物を羽織り庭へと出た。
綺麗に手入れされた庭は夜の星々の瞬きと月の光に照らされて幻想的だった。
人工的な光がないとここまで星は眩しいものなのかと思いつつその庭の中心にまで歩みを進める。
そして、全身に光を浴びるかのように上を見上げた。
瞳を閉じてただそのまま立ち尽くし。
すると、急に後ろに人の気配を感じた。

さん・・・?どうしたんですか?こんな夜更けに」

優しげで少し低いその声色。
声の主がわかった私は平静を装って振り返った。

「弁慶。いや・・・少し夢見が悪くてな」
「そうなんですか?薬湯を用意しましょうか?」

弁慶は心配そうにこちらに寄ってきた。

「いや、いい。いつもの事だ」
「いつも、ですか?」

私の言葉を不思議に思った弁慶が問い返してきた。
まあ、誰にも話したことはないし、彼が知りえる筈もないから当たり前だろう。

「ああ、過去の夢が私をいつまでも縛り付けている。仕方ない事だがな」

そうやって苦笑してみれば弁慶は黙り込んでしまった。
急にどうしたのかと思い、振り返ってみるとそのまま私は抱きすくめられてしまった。
仄温かいその温もりが心地よい。
鼓動の音が私の波立つ心を静めていく。

「貴女は・・・いつもそうやって自分の感情を殺そうとする」
「弁慶・・・私は・・・」

そんなことはないと否定の言葉を述べようとするがそれは叶わない。

「いつも貴女はそうやって大丈夫だというけれど本心ではないでしょう?
貴女はいつも壊れそうだ。硝子細工のように繊細でいつも心配になる」

見抜かれていたのだろうか。
心を偽る事に関しては自信があったんだが。
それすらこの源氏の軍師には通用しないらしい。
なかなかの曲者ということだろう。
けれど、見抜かれていて嬉しいとも思う。
そんな私は愚かなのだろうか。
私はそんな想いを抱きながら少し微笑して言った。
その微笑は自嘲的な笑いに近かった。

「弁慶・・・私は確かにいつも思う事があるよ。
私のせいで死んだ人間は幾らいるのだろう。私のせいで傷ついた人間は幾らいるのだろうと」
さん・・・・」

彼の悲しそうな言葉が聞こえたが私は言葉を続ける。

「私はいつも自分を責める。そして、罪から逃れようとする。とても愚かな事だ。だけど、心が罪を受け入れるのを拒絶するから」

すると、彼の抱きしめる腕の力が強くなる。
それは違うと言わんばかりに。

「でも、最近は少しずつだけど受け入れる事が出来てきた。白龍の神子である望美のおかげかもしれない。
彼女の姿を見ていると前へ進まなければいけないと思えるようになった。それでも時にはこんな風に過去の夢を見て暗い闇に引きずられそうになる」
「なら・・・」
「・・・?」

弁慶がゆっくりと腕を解くと私の顎に手をかけた。
私の顔をそっと上に上げるとこう告げた。

「貴女が前へ進む道の中、暗い過去の闇に囚われてしまいそうになったら貴女の隣で手をとって歩きましょう」

どこまでも優しく告げる声。

「貴女を愛おしいと思うから。だから、ずっと傍に居ましょう・・・」
「弁慶・・・貴方は私を選ぶというのか?」

私なんかを選ぶ人などいないと思っていた。
だからこそ驚き目を見開いた。
しかし、彼はそれでも言葉を紡いだ。

「貴女でなければ駄目なんです。貴女が私をいつも救ってくれる。私の罪からいつも。
貴女はいつもその光で私を救ってくれる。だから、私も貴女を救いたい。貴女が愛おしいから」

その言葉を告げると唇にそっと温かな感触が触れる。
柔らかく温かなそれは私を甘い夢へと誘うようだった。
ゆっくりとそれが離れると私は再び腕の中に閉じ込められた。
そして、彼の鼓動を聞きながら自らの気持ちを語った。
彼の心音が語れと言っている様に聞こえたから。

「そうだな・・・きっと私も弁慶が好きだ。愛おしいと思う。優しい貴方が好きだとそう思うから」
「そういってくれると嬉しいですね・・・貴女を守ります。どんなものからも。今は貴女を苛む夢魔から・・・・」

貴方の囁く声はどこまでも優しくて涙が出そうだった。
きっと私たちは似ている。
だからこそ愛おしい。
同じ痛みを知っているからなお愛おしい。
そして、守りたいと願うのだ。
どんなことがあっても。
もし、貴方が悪夢に苛まれたら私が優しい声をかけて助けよう。
だから、貴方も私が悪夢に苛まれたらその優しい声で囁いて。
「大丈夫」と・・・
その日、私は愛おしい人の腕の中で眠りについた。
光のような温かな髪色をした彼の腕の中で・・・