決して強い訳でもなく、迷惑を多大に掛ける様な俺の傍に。
ただ、何も言わずに傍にそっと寄り添ってくれる。
幾年も、幾日も、幾時も。
それだけで心折れる事無くここまでやってこれた。
そんな彼女だからこそ永劫を願った。






未来永劫甘美な愛を







俺にとって唯一無二の存在。
何よりも大切で愛おしい、たった一人の女。
漣の様に掴み所のない不思議な女で何よりも綺麗な人物だ。
正直、俺には勿体無いぐらいの女。
だけど、あいつは俺を選んでくれて今も傍に居て微笑んでくれる。
興味がないフリをして実はちゃんと俺の事を見守ってくれていて。
心が折れそうになればそっと支えてくれて。
踏み出せないでいればそっと背中を押してくれる。
今の俺が居るのは彼女のお陰だと言っても過言ではないと思う。
それを直接本人に言ったならばきっと淡々と。

「私は関係ないわ。貴方自身の力ではないの?」

って感じで「馬鹿な事を考えるのだから」なんて言われると思う。
だから、直接は言わないけれど本当に感謝をしている。
忙しくて構ってやれない事だって多いのに文句も言わずに俺の傍に居てくれて。
俺を愛してくれて。
直接言うのは照れ臭い。(長年の付き合いだからこそ気軽に言えない事がある。)
しかし、今日ばかりは俺の心の内を全部話すつもりだ。
というのも今現在進行形で彼女の待つ自宅の一室に向かっているのだが。
そんな俺の両手を塞ぐもの一つは綺麗に包装された小さな箱。
もう一つは大輪の紅い薔薇の花束。
ちょっとベタだろうかなんて事も思ったが俺にはこれしか思いつかなかった。
最終的には想いなのだからそのへんはあまり気にしない事にする。
自分に落ち着けと言い聞かせる内にとうとう目的の場所へと到着してしまった。
高鳴る心音に深呼吸を繰り返しながら静まれと告げる。
そして、よしっと意気込んで震える手でノックをすると中から彼女の澄んだ声が響く。

「はい」

聞こえて声に俺は肩を少し震わせて扉のノブに手をかけて勢いよく開けた。

「ただいま!久しぶりだな!!」
「ディーノ。お帰りなさい。・・・で、それはいいけど何それ?」

淡々と挨拶を済ませると彼女は単刀直入に突っ込んできた。
俺は、「あーうー」と意味の判らない唸り声を上げる。
だが、いつまでもそうしている訳にはいかないと思い彼女に近づく為に一歩踏み出した。

「実はな!今日はお前に話がぁっ!?」

唐突に途切れた俺の言葉。
嗚呼、こんな時ばかりは己のドジさ加減を呪う。
何もないのに足を滑らせてしまい、そのまま彼女の方へと倒れこんでしまったのだ。
もちろん彼女を巻き込んで。

「っっってぇー・・・わ、わりぃ・・・・」

体を起こして向かい合わせになる。
下を見下ろすと彼女は慣れたといった表情で「今更、気にしないわ」と告げた。
そんな俺たちの頭上には散った薔薇が舞っていた。
全くどんだけかっこわるいんだとヘコんでいると彼女が告げた。

「ねぇ、思い違いだったらごめんなさい。もしかしてプロポーズするつもりだったのかしら?」

その言葉に俺は思わず顔を赤らめる。
ああ、本当に格好悪い。
そう思いながら取り合えず羞恥で赤くなった顔を片手で抑えて肯定の返事を紡ぐ。
暫し無言が二人の間に漂うと彼女はゆっくりと唇を開き告げた。

「そう、なら返事はイエスよ」
「・・・ええ!?」

まさかの発言に更に驚く俺に彼女は慌てると「またトジを踏みかねないわよ」諭す。
それで、俺がゆっくりと高鳴り混乱する心臓を感じつつ、身を起こし床に座ると彼女はこう告げた。

「元々、答えは決めてたから。私にはディーノだけだもの」

あっさりとそれだけ淡々と告白する彼女に俺は呆気に取られるしかなかった。
間抜けな顔だとか気にする余裕もなくて口と目をこれでもかというぐらいぽかんと開けて。
すると、彼女が溜息をつく。

「驚くのも無理はないけれど、言葉ぐらいはちゃんと言って欲しいのだけれど?こういう時ぐらい」

最もな意見に漸く頭の理解が追いついた俺は頭をがしがしと掻いた。
なんだか変なプロポーズになってしまったと思うのと同時に彼女の言葉が嬉しかったのだ。
そして、順序は逆になってしまったが息を深く吸い込むと告げた。

「俺の傍に居て欲しい。だから、結婚してくれませんか?」



紅い薔薇の花弁だけが微笑み口付ける俺達を見守っていた。
(指輪を嵌めた後、彼女は微笑を浮かべながら順番が逆だなんて私達らしいわと笑った。)