彼はどこまでも孤独な人だ。
どこまでも彼は不器用で歪んでいる。
素直になろうとしない彼はどこまでも孤独なのだ。
本当は何よりも優しい人だと言うのに。






白銀の君に捧ぐ







私の上司はどこまでも不器用な人だ。
彼は何よりも人を欲しているのに。
やり方が不器用で歪んでいる為、孤独でいる。
むしろ、孤独だと勘違いしていると言った方が正しい。
彼はどこまでも悲しい人だ。

、何をしているんです。早く来なさい」
「はい、ディスト様」

いくら冷たい態度をとられようと私は一向に構わない。
私の意志など彼の傍に永遠に居たいというだけであり。
その他の欲求などまるでないのだから。
彼が隣にいればそれで構わないのだ。
私にとって彼は世界で全てで愛すべき存在なのだ。
彼の全てが私を支配する。
それだけで私は満ちたりた気分になる。
そんな私も不器用な人間なのかもしれない。
そして、孤独な人間なのかもしれない。
一歩を踏み出せば何かが変わるであろう。
しかし、私にはそれは自殺行為に近く、彼の傍を離れるきっかけになるかもしれないからだ。
だから、私はきっと永遠にこの一歩を踏み出せないだろう。
彼を失う事は何よりも恐怖なのだから。

、貴方はいつも無表情で私でさえ何を考えているかわからない。
貴方はいつも何を考えているのです?その仮面の内は一体どうなっているんです?」

さきほどから歩いていた彼が止まったかと思えば珍しく語られた彼の心。
私は動揺した。
いきなりどうしたのだろうか?
こんな事を言う事は皆無に等しく、本当に珍しい。
私は少なからず言葉に詰まる。
率直に告げるべきなのかどうかと迷う。
すると彼は今度はこちらを向きただ私を見据えて言った。

「貴方は何故、私なんかの傍にいるんですか?」

そう告げた彼は悲愴な表情を浮かべた。
嗚呼、なんて顔をするのですか。
私は思った。
けれど、彼にそんな表情をさせているのは私でもあるのだ。
私はそこまできて率直に告げる事にした。

「貴方、だからです」
「どういう意味です・・?」

不思議そうにする彼に私はただ凛とした態度で告げる。

「ディスト様だからこそ傍に居るのです。私は愚かしく貴方に恋情を抱いております。
貴方の為ならこの身も心も魂も全て捧げようと誓っております。私に出来るのはそれ位ですから」
・・・貴方は・・・」
「私は、離れません。貴方の傍からどんな事があろうと」

私の言葉は彼に届いたのかはわからない。
言葉というよりは想いだが。
届こうが届かなかろうが構わない。
全ては私の一方的な想いなのだから。
そうして、私は諦めに似た吐息を吐き瞳を閉じた。
終わったのかもしれないと思って。
しかし、その次の瞬間、私は強く壁に身体を押し付けられた。

「・・・ッ!なぁ、に・・ふぁっ!」

気付けば彼の体が私の肌に触れ、彼の唇が私の唇を塞いでいた。
吐息が漏れる。
しかし、絡み合う熱は解ける事はなく。
ただ、ひたすらに妖美な音を漏らしながら続く。
私は息が上がってくるのを感じながら力が抜けてくるのを感じた。
それに気付いた彼は唇を離し、私の唇をひと舐めして告げた。

「どんな事でもと貴方は言いました。ならばどれほど貴方が私の仕打ちに耐えられるか実験しましょう」

力の抜けた私の身体を抱き上げると自分の私室まで運び、ベッドの上に放り投げられた。

「ッ!ディスト様・・・!」

私が驚いた表情を見せて見れば彼は妖艶な笑みを浮かべて私の服に手をかけた。
本当にこの方はどこまでも不器用で悲しい人。
私はそう思うと同時に諦めにも似た感情を抱き瞳を閉じた。
私はもうこの人に溺れているのだから。
今更何をされてもきっと受け入れてしまうという確信していたのだから。

・・・私はきっと貴方を純粋に愛せない」

そんな小さく呟かれた言葉が快楽の波の狭間に聞こえた気がした。
私はその時そっと思った。
それでも私は愛し続けるのだと白銀の貴方に誓ったのだった。