他に大切なものが出来ても私は構わない。
そんな貴方を愛しているのだから。
それに、貴方は私を一番に愛してくれる。
だから、私は貴方が幸せならばそれでいいの。






マリアの微笑







「ハセヲ。会いたかったよ。ずっと待ち焦がれていたよ。この時を」
「エンデュランス・・・昨日、会っただろうが」

毎度毎度お馴染みとなった光景に一方は呆れ、一方は恍惚とし、また一方は苦笑を浮かべた。
今日は久々に結構なメンバーが集まっていて暫く話に華を咲かせる事に。
ハセヲとエンデュランスの方が落ち着くまで。

「それにしてもはよくエンデュランスと付き合おうと思ったわね」

パイがしみじみとそう私に訴えかけてきた。
一体何がそんなに驚く事なのだろうかと首を捻り考える。
だが、そんな私の思考を遮ってアトリが声を上げた。

「パイさんもやっぱりそう思いますよね!私も言っちゃ失礼かなとは思ったんですけど不思議だったんです」
「実を言うと俺も。だって、エンデュランスってその、ハセヲにベッタリだろ?」

まあ、確かにそれは否定しないがそれとこれとがどう関係あるのかとまた疑問は深まり呻る。
その間にも皆は口々に話を続けていく。

「あれは、一種の病気だろ。そういうの見ては嫉妬とかしない訳?」
「まあ、男に言うのも変な話しだろうけど私もそう思うわ。同じ女として」

揺光の言葉に頷く面々に私はまたまた首を捻る。
嫉妬。
嫉妬かぁ・・・としみじみと考える。
が、やはり思い当たる節はない。

「嫉妬はないわ。あれはあれで微笑ましい光景だと思うし」
「「「「微笑ましい!?」」」」

素直に心のまま告げると面々が驚き声を上げる。
流れてくる大音量に思わず仰け反りそうになる。
そこまで驚く事だろうかとまたまたまた首を傾げた。

「あれが微笑ましいのか!?本気で!?」
「本当に微笑ましいんですか!?」
「そこまで問い直される程おかしい・・・?」
「「「「おかしい」」」」

皆きっちり声を合わせて言わなくても。
心外だ。
全く持って心外だ。

「そうは私は思わないのだけど・・・」
「いえ、おかしいわ」
「パイ、そんなにはっきりと否定しないで」

きっぱりとそこまで言われるとまるで私が変人ではないか。

「でもさ。本当に嫉妬しないんだ?ちゃんは」

クーンが再確認するように尋ねてくるのでこくりと頷く。
すると、アトリが感心するように呟いた。

さんって心が広ーいんですねぇ・・・」
「ほんっとうにそう思うよ。私も」
「右に同じく」
「俺も」

異口同音。
全く持って私は普通なつもりなのだが彼らにとっては違うらしい。

「私は至って普通よ。
ただ、エンデュランスが少しでも外の世界に興味を持ってくれればそれでいいのよ。私は」

そっと視線をエンデュランスに向けて微笑む。
ハセヲと会ってから彼は変わった。
ううん、変わってきてる。
長年一緒に居たから判る。
私以外の他人を受け付けなかった彼が他の人とも微かだが関わろうとしてきているのだ。
それはハセヲ以外の人にも言える事。
ここに居る皆と出会って変わったのだと私には判る。
ただ、その変わるきっかけの大部分がハセヲだっただけ。
他に彼に大切なものが出来ても私は嫉妬なんかしない。

「本当にってば優し過ぎる」
「そうですよ!少しぐらい怒ってもいいと思います!」
「ま、でもちゃんはエンデュランスの母親役でもあるしね」

茶化すようなクーンの言葉になるほどと頷く面々。
何が成るほどだ。
何が。
まあ、いいけど。
あながち間違いではないし。

「さて、話はこの辺。もうすぐ二人もこっちに来るわ」
「判るんですか!?」

驚くアトリの声に私も何故か律儀に答える。

「リアルで隣にエンデュランスが居るんだから判るに決まってるでしょう」
「あ、そうなんですか・・・って、えええ!?」

私の言葉に何故か驚くアトリ。
というか皆である。
こちらに向かってきていたハセヲも驚き後方で叫んでいる。
だから、何を驚く必要があるのだ。

「どうかしたの??」

こちらに走ってきたハセヲについて走ってきたエンデュランスが隣に立って問う。
リアルでも隣にいるのだから変な感じだが。

「ただ、エンデュランスがリアルでも隣に居るって言ったら驚いて。皆が」
「ふーん・・・それは、同棲してるって言ってなかったからじゃない?」

嗚呼、成るほど。
そう言われてみれば言ってないか。
聞かれもしなかったから話す事もなかったし。

「そう言えば言ってなかったわね」
「そう、言ってなかった。これで疑問は解けたよね?ハセヲ」
「いやいやいや!?同棲ってお前っ!!」

何処か恥かしそうに声を上げるハセヲ。
面々も驚きの余り声が出ない様子。

「昨日から私のマンションに暮らしてるのよ。エンデュランスが一緒がいいって言うから」
「そう言う事」

淡々と二人で告げてもやはり面々は固まった様子。
何がそんなに驚く事があるのだろうかと二人で顔を見合わせる。
リアルでも互いに手を握って首を傾げる。

「皆、固まって動かないわね。エンデュランス」
「そうだね。もう少し待っていよう」
「そうね。その内我に返るでしょう」

私の言葉にこくりと頷くエンデュランス。
その仕草が何故か愛らしく私は笑みを浮かべる。
すると、エンデュランスは何か考えた後、私に尋ねる。

「うん。・・・ねぇ、
「何?」
「ありがとう。いつも僕の傍に居てくれて」

唐突な礼の言葉に私はきょとんと目を丸くして彼を見た。
いきなり何事だと。
すると、彼はそれに気付いたのか付け足すように告げる。

「ハセヲがちゃんとに感謝しないといけないって言ってたから」
「ハセヲが?」
「そう。僕がに沢山感謝している事を告げたら言葉にしないと伝わらない事もあるって」

ハセヲ効果がここにもと思い、納得する。
確かにエンデュランスは余り言葉にする事が少ない。
どちらかと言えばスキンシップで伝える方だし。
が、たまに聞く言葉は何だかくすぐったくて私をとても幸せな気持ちにしてくれた。
これは、またハセヲに感謝する事が出来てしまった。

「そう。なら、私もちゃんと言葉にしなきゃいけないわね。私もありがとう。エンデュランス」
「どうしてありがとう・・・?」
「こうやって傍に居てくれる事とか色々と。私もエンデュランスと同じで沢山感謝しているから」

私の言葉に納得したのか「ふーん・・・」と言葉を漏らした後。
突如、リアルの私の目の前が陰る。
何事かと思えば私の唇に軽く触れる温かな感触。
そして、響くリップノイズ。

「お礼・・・?」

首を傾げてそう告げる彼がおかしくて私は笑いながら「ありがとう」と答えた。
だが、その後、響き渡る怒声にその声はかき消された。



寛容な聖母の様な微笑みを浮かべて。
(エンデュランス!!そう言う事はオンの時にやるなっ!!)
(でも、したかったから。許して、ハセヲ。)