叶わないなら望まなければよかった。
むしろ望ませないでくれなければよかった。
君を想う気持ちは粉雪のように消えていく。
切なく、儚く。






雪に消え、雪に始まる







分かってたんだ。
本当はずっと前から君といつかは離れなければいけない事を。
私が生きる世界はここではないから。
だから、いつか君にさよならを言う日が来るって分っていたんだ。
それでも望んでいた。
君が「愛している」と言ってくれるから。
君が私を望んでくれるから。

「フェイーフェイー」
「なにね。その気色の悪い呼び方は」
「なんとなく?」
「言てる事、無茶苦茶よ」

私がフェイタンと恋人同士という関係になって一体どれぐらいの時が経っただろう?
初めて出会ったのが一年前。
それから二ヶ月後にはもう恋人だった。
だから十ヶ月ぐらいは彼の心の中で一番近い位置に居る。
いや、もう居たという過去系になるのかもしれない。
何故なら私はこの世界から居なくなる。
元より私はこの世界の人間じゃなかった。
私は普通の女子高生で本当にひょんな事からこの世界に来て旅団にいる。
でも、もうすぐそれも終わり。
私だって本当は簡単に終わりたくはない。
それでも願いは叶わないから。

「ねーフェイー私が居なくなったらどうする?」
「・・・いきなり何ね」

フェイタンの胸に体を預けながら上を向くと
フェイは顔を顰めて怪訝そうな表情を浮かべている。

「まあまあ、もしもの話」
「ワタシがを離すと思うか?」

フェイタンはそういいながら私を抱く腕を強めた。
それは今の私にはとても苦しく痛かった。
いつもはとても幸せになれるそれは苦しく痛かった。

「思わない。でも、実際は何があるかわかんないよねぇー」
「全く何が言いたいね?」
「別に言ってみただけ。そろそろ戻ろう?風邪引いちゃう」

誤魔化すように立ちあがりフェイタンの腕を引っ張った。
納得いかないながらもついてくるフェイタンに私は気付かない振りをした。
そして、数日後。
ついに別れの時は来た。
夜にふいに目が覚めた。
寝ぼけ眼でふと自分の異変に気付いた。

「あ・・・」

体が透けていた。
別段驚くわけもなく私はただこの世界から居なくなる。
元の世界に帰るのだと何となくだが頭で理解していた。
私はフェイタンを起こさぬようにベッドから出た。
そして、前から書いておいた手紙をそっとベッドの上に置き、部屋を後にした。

「寒ーい。雪か・・・」

ひらりひらり舞う雪の華が私にお別れを言っているようだった。
その時、頬を一筋の雫が伝った。
やっぱりここに居たいのだと心が悲鳴を上げたのだ。

「・・私っ・・・!ここに・・居たいよぉ・・・!」

それは私の最後の叫びだった。
消え行く体が刻々と残酷に現実を突きつける。
私は諦めたかのように立ちつくした。
空を見上げて君を思った。

「ごめんね・・・フェイ・・・さようなら・・・大好きだったよ・・・」

その言葉を最後に私の体は崩れ始めた。
もう少しで消えてしまうというその時。
ふいに後ろから声が聞こえた。

!」

それは私の名を呼ぶ愛おしい人の最後の言葉だった。
私はゆっくりと振り向き口を動かした。

『サヨナラ』

それと同時に私の視界はブラックアウトした。
目覚めた時、私は白いベッドの上に居た。
半年以上も意識を失っていたらしい。
全ては夢だったのだろうか?
そう思った。
その時、ふと指に光るものを見つけた。

「これ・・・・」

それはフェイタンが誕生日プレゼントにとくれたものだった。
あれは夢じゃなかったと知らしめるそれを見つめ、私は泣いた。
涙が枯れるのではないかと思うほど泣き明かした。
それから一年の月日が経った。
再び日常に戻った私は彼を忘れつつあった。
唯一繋ぐのは手に光る指輪だけ。
それが私を悲しみでいっぱいにする。

「私が欲しいのはこんな日常じゃない・・・彼なんだ・・・」

私の世界は色を失くし、音を失くして・・・
この世界は幻想で君がくれた想いは永遠で。
全てリアルに感じれなくて。
だから祈った。
君に会いたいと。
そして、その指輪に口付けを落とした。

「え・・・?」

その瞬間、辺りは眩い光に包まれて。
気付いた時、私は見覚えのある場所に居た。
君が居たあの日の場所。
そして、再び信じられない光景を見た。
君の姿を。

「嘘・・・」

その声に気付いたかのように雪を眺めていた彼の視線が私に向けられた。
そして、一瞬目を見開いた彼はすぐにいつもの無表情に戻った。
気付けば目の前に彼が居た。
あの日、別れた彼が。
ふわりと温かな何かに抱きとめられた。
それは紛れもなく彼の腕で。
私をそれが現実だと知らせた。
耳元で聞こえる吐息、そして、伝わってくる温もり。
そして・・・・

「お帰り・・・

最愛の君の声が私の世界に再び音と色を与えた。
とめどなく流れ出す雫を拭うことすらせずに私は彼にしがみついた。

「ただいまっ!」

君と離れた一年。
再び巡った冬に私達は再び出会った。
そして、始まった君との新しい時間が。