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例えばそれはとても気づき難いモノで
「あー・・・血塗れ。フェイ。そろそろ帰らない?」
常闇の中。
ただ、月が辺りを照らすだけのその空間に少女と青年。
そして、その二人の周囲には屍が累々と積み上げられていた。
少女を彩るは真紅の血痕。
青年にも少女に比べて少ないが真紅が散りばめられていた。
気だるそうに青年は立ち上がると少女の隣まで近寄る。
「そうね。アヤノ、そろそろ帰るよ」
「うぃーってか最近、強い奴居なくてつまんないね」
アヤノは頬を膨らましながら幼子のように拗ねた物言いをした。
それに微かに苦笑を漏らしたフェイタン。
だが、フェイタンも同じ事を思っていたらしく頷いた。
「まあ、仕方がない。諦めるね」
「そだね。はぁ~それにしても最近、面白い事ないねー」
心底、アヤノは退屈らしくそう漏らす。
だが、はっとしたようにフェイタンに向き直ると、
「別にフェイと居るのがつまらない訳じゃないよ!?
フェイと居るのは嬉しいし、楽しいし!!本当だからね!!」
そう、慌てて弁解した。
「わかてるよ。別に気にしてないね。
最近、騒ぐような事もないしつまらないのは確かね」
「だよね。まあ、旅団の仕事がないせいもあるだろうけど。
世界自体がつまらないから仕方ないか・・・フェイと居れるならそれでいいしね」
アヤノは無邪気にそう言って笑った。
それにフェイタンはドキリと心臓を高鳴らせたがそれを悟られるような真似はしない。
ただ、ゆっくりアヤノに近づいたのだった。
「アヤノ」
急に名前を呼ばれたアヤノは頬を微かに染めつつも、笑顔を浮かべてフェイタンを見た。
すると頬に手を宛がわれ思わず体がピクリと反応する。
あまりに冷たいその手の温度が頬をじわりと冷やしていく。
「フェイ。手、冷たいね」
「そうか?そういうアヤノはどこも熱いよ」
「そっかな?」
冷たい手の感触を感じながら会話をしていると急にフェイタンの顔が近づく。
一度も止まる事なく、瞬きをする事もなく。
そのまま一気に近づくと唇が軽く触れ、離れた。
それを合図にアヤノはゆっくりと瞳を閉じると。
今度は深いくちづけが交わされる。
熱い舌根が絡まり合い、透明な雫がアヤノの口内へと流れ落ちる。
飲み込みきれなくなった雫が唇の端からツーっと伝い落ちた。
「んんっ・・・んっ・・・」
くぐもった声が静かな夜の闇に消えていく。
深く深くなっていく口付けに耐え切れなくなったアヤノがフェイタンの服を強く握る。
それに気づいたフェイタンがゆっくりとくちづけを止めて顔をあげた。
「ふあぁっ・・・・」
アヤノの甘い吐息と共に互いの唇を銀糸の糸が繋ぎ止める。
それがプツンと切れるとフェイはアヤノを強く抱きしめた。
「ワタシはアヤノとこうする時間が増えるなら今みたいな暇な日が続いても構わないね」
アヤノはそれを聞いて一気に顔を紅くした。
「バカ」
「誰がバカか?」
「フェイ。・・・でも、私もフェイと一緒に居られるならそれでいいや」
そう言ってアヤノはゆっくりとフェイタンの温もりに擦り寄るようにその胸に顔を埋めた。
互いの鼓動がドクドクと聞こえ合い、一つになったような感覚に貶める。
「ねぇ?フェイ」
「何ね?」
尋ね返したフェイの声を聞くとアヤノは顔を上げてフェイを見つめた。
「私ね。旅団の皆とバカ騒ぎして暴れるのも好きだけど、それはフェイが居るから楽しいのであって。
フェイがいなかったら全然楽しくないと思うの。だから、だから、ずっとずっと一緒に居ようね」
アヤノはにっこりとそう笑った。
それに答えるようにフェイタンも微笑すると「努力はするね」と呟いた。
「努力じゃなくて絶対!!」
「わかた。わかた」
「約束だからね?」
念を押すようにアヤノが言うものだから
フェイは「わかた」ともう一度言うとその頬に誓うようにキスを落とした。
それに一瞬きょとんとしたアヤノだったがすぐさま満足したように微笑むとフェイタンの手を引いて歩き出した。
「じゃあ、帰ってご飯食べよう!」
「・・・血塗れのままか?」
「・・・先にシャワー浴びてから」
血塗れのことなど頭になかったアヤノは恥ずかしそうにそう訂正した。
「今日は何を作る気ね?」
「パスタとあったかポタージュスープ。
んで、カリカリベーコンのサラダとバニラアイス」
「バニラアイスに生クリームトピングで」
「了解!」
世間的にいう犯罪者であっても
愛おしい人とその人と一緒に居れる時間は何よりも大切で。
どんな刺激的な日常もどんな平凡な日常も。
愛おしい人といるからこそ輝き素敵だと思えるのだと。
少女と青年は心から思うのであった。
血塗られた宵闇の中で見つけた当たり前だけど気づき難い宝物のお話。
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