ヴァン達との戦いが終わって三年が経った。
三年経った今、漸くルークが帰ってきて俺達の本当の戦いが終わった。
俺は相変わらずグランコクマでピオニー陛下やジェイドの雑用をさせられている。
女性恐怖症の方もまあそれなりに何とかなってきた。
だが、どうしても一人だけ苦手な人物がいる。
それは・・・
突然告げられた言葉は絶大な殺傷能力を持つ
「ガイ。見つけたわよ・・・この私から逃げられると思って?」
「ひぃ!?様!?うわぁっ!?ちょちょ!ちょっと近づかないでくださいぃいい!」
じりじりとにじり寄ってくる女性。
女性の名は・ウパラ・マルクト。
つまりピオニー陛下の妹君なのである。
もちろん俺よりも地位が上なわけで逆らえないのだが。
どうもこの人は陛下に性格が物凄くそっくりで俺の女性恐怖症を面白がっているらしい。
「あら、私は貴方の女性恐怖症を治してあげようとしてるのに」
「いいいえ!!結構です!!お願いですからそれ以上寄らないでくださいぃいい!!」
必死に叫ぶと急に様の動きが止まった。
それを見て俺は閉じていた目を恐る恐る開けると
そこにはジェイドの様に意地の悪い笑みを浮かべている彼女の姿が目に入った。
「うふふ。私がそれしきでやめるわけがないでしょ?」
にっこり笑って吐かれた残酷な台詞に俺はさぁーっと血の気が引くのがわかった。
「ふふふふふっ!観念なさぁい!」
「ぎゃああああああっ!!!」
俺はそこで意識が途切れた。
「んっ・・・・ここは・・・・」
「おや?目覚めましたか?ガーイ」
「ジェイド・・・」
これまた悪夢のような人物が目が覚めていきなり入って来た為、俺は軽い頭痛を覚えた。
「いやー相変わらずガイは様が苦手ですねー」
「しょうがないだろ!?っていうか女性が苦手なだけで彼女が苦手なわけじゃない!」
そう俺がありのままを言うと再びジェイドがにんまりと笑った。
「えらく弁解しますね。もしかして様に惚れてるとか?」
「なっ!?そんなことはない!!」
「そうですか?まあ、私には関係ありませんけどねー」
なら聞くなよこいつ・・・
ってか絶対に気付いていてこんな事言って探ってるに違いない。
まあ、ジェイドが根性ひん曲がっているのは今更な話だし、俺は諦めにも似た溜息を吐いた。
するとコンコンと軽いノックが聞こえた。
そして、扉が静かに開くと様がひょっこりと顔を出した。
「ジェイド。ガイは目覚めたの?」
「ああ、噂をすれば様。ええ、目覚めましたよ」
ああ、ついにきた悪夢の元凶がと俺は再び溜息をつく。
だが、やはり好きな人に会うのは嬉しいのかにやけそうな自分が居る。
相当、末期だな。
それにしてもこの二人って仲がいいな。
様は陛下の妹とはいえ、俺より二歳上程度だ。
年が離れているにしてはジェイドとやけに仲がいい。
正直言うと少し妬ける。
「そう。というより私の噂って何かしら?ジェイド」
思考に浸っていると様はにっこりと微笑みながらジェイドに尋ねた。
「いえいえー大した事じゃないですよー」
笑顔で流そうとするジェイド
「うふふ。本当にジェイドったら隠し事が上手ね」
「そんな事ありませんよー猫を被るなら様の方が得意でしょう?」
「嫌だわ。ジェイド、人聞きの悪い」
な、なんだかよくわからないがすっごくこの二人の間からダイアモンドダストが・・・!
いや、これは喧嘩するほど仲がいいというやつなのだろうか・・・
「うふふふふ」
「ははははは」
違うな。
むしろ同属嫌悪とか牽正のし合いとかそんな感じだ。
「本当に私の教育係をしていた頃からジェイドは腹黒いわ」
「それを言うなら様もですよ」
「ちょ、ちょっとまて!ジェイドって様の教育係なんてしてたのか!?」
俺は驚き思わずツッコんだ。
すると二人はきょとんとした顔でこちらを見たかと思うと笑いを浮かべて答えた。
「ええ。陛下に頼まれましてね」
「そうなのか・・・」
どうりで悪魔のような笑みがそっくりだと思った。
ジェイドに教育させたせいだったんだな。
あの笑みは。
ようやく合点が言ったといわんばかりに思考がまとまったところで俺は様を見た。
「ところで様。何か御用ですか?」
「へ?あ、うーん。そんなとこ?」
「なんで疑問系なんですか。まあ、いいでしょう。
私はこれにて失礼させていだきます。後はお二人でごゆっくり。では」
意味深な言い方をして去っていったジェイドを見て俺はため息を再びついた。
「本当にジェイドったらどうしてあんな含みのある嫌味な言い方しか出来ないのかしら」
「俺もそう思います」
思わず同じことを考えてしまったなと俺が苦笑していると様が傍まで近寄ってきた。
俺は思わず先ほどのトラウマかぴくっと軽く体が動いた。
それを見て様は一瞬間をおいてからぷっと吹き出して笑った。
「ふふっ!大丈夫よ。もう抱きついたりしないから」
「は、はぁ・・・」
気の抜けた返事をすると様は急に黙り込んだ。
「様?俺に用があったんじゃ・・・」
「あ、うん。まあ、そうなんだけどね。その、ごめんね?」
「・・・は?」
急に脈略もなく謝られて俺は困惑した表情を浮かべる。
すると様は俺のベッドサイドに腰を降ろして言葉を続けた。
「今日のはちょっとやり過ぎたかなぁーって思って」
珍しくしおらしい彼女の仕草に俺は少し目を見開いた。
でも、次の瞬間どうしようもない笑いが込み上げてきて。
思わず噴出してしまった。
それを見た様が怒ったのは言うまでもなく。
「な、なんで笑うのよっー!!」
「い、いや!なんだかしおらしい様ってのも珍しくて可愛いなって思いまして」
率直にそういうと次に様は顔を真っ赤にして手をわなわなと震わせている。
「ガ、ガイって時々そうやってたらし込むから嫌だわ」
「たらし込むって・・・」
余りの言い様に苦笑を浮かべる。
そうしていると急に様は真面目な表情を浮かべた。
「・・・ねぇ。ガイ」
「なんですか?」
「貴方のトラウマってすごく深いのね」
「・・・その事ですか。本当は今はそこまで気にしているわけじゃないんですよ。
でも、やっぱり拭い切れないものがあって。正直、自分でも恐怖症を克服しようとは思っているんですけどね」
特に隠すわけでもなくそう告げると彼女は「そう」と言って再び沈黙してしまった。
しかし、すぐさま顔を上げて立ち上がると俺を見て微笑んだ。
あまりに綺麗なその表情に一瞬で心を奪われる感覚に陥る。
「じゃあ、決めた」
「何をですか?」
「ガイが女性恐怖症を克服するまで大人しく待ってるって」
「待つ・・?」
予想外の言葉に俺は首を傾げて尋ね返す。
すると彼女はまた深く深く綺麗な笑みを浮かべて告げるのだった。
「ガイに私を好きになってもらうのを」
「・・・・・・え。えええぇっ!?」
俺が驚いていると彼女はしてやったりという表情を浮かべてこう言った。
「だから覚悟していてね?まあ、気はあんまり長くないから我慢できなくなるかもだけど」
「いや!そうじゃなくて!今・・・」
「質問はなし!聞きたかったら女性恐怖症克服してね?じゃあ、また明日ね」
そう言うと彼女は呼び止める声を聞くことなくその場を後にした。
残された俺は静かに扉が閉まる音を聞き届けると同時にその場で項垂れた。
その時の俺の顔は全身の血が集まってきているようなそんな感覚に襲われるほど熱くなっていた。
「もう・・・好きなんですけどね」
誰もいない部屋で一人呟くと込み上げてきた恥ずかしさに顔を手で覆い隠した。
外は呑気に啼く鳥の声が響いていた。
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