誰よりも優しく強く包み込んでくれていた。
誰よりも誰よりも愛おしい人。
貴方と出会った頃が懐かしい。
楽しかった日々が今では切ない。






想う心は六花に消えて







ピー・・・と言う電子音と共に留守電が再生される。
私は携帯に耳を当てながら聞く。
そこには紛れもない彼の声が聞こえてきて。
その声には困惑と悲哀と憤怒とが含まれていて。
嗚呼、貴方はそこまで私を思っていてくれたのですか?と言うような言葉がたくさん入っていた。
しばらく聞いていた私。
しかし、あまりに優しすぎるその台詞に耐え切れなくなり携帯を投げ捨てた。
そのままベッドに寝そべり、天井を見つめる。
電気もつけて居ない為、やけに外の光が眩しい。

(もう、一ヶ月経つのか・・・)

時間とはこんなにも容易く過ぎるものなのだなと頭の片隅で考える。
今の私は正直、人の形をしているが魂の入っていない人形と同じようなものだった。
瞳は鈍く光を失い濁る。
私はあの人の為と言いながら自分のエゴであの人を捨てたのだ。
丁度、一ヶ月前に。
なのに想いは募る一方で会いたくて会いたくて堪らない。

「隼人・・・隼人、隼人・・・・」

幾度となく呼んだ所で返事が返ってくるはずもなく。
ただ虚空に消え行く。
あの人を捨てたのは誰でもない私。
私が耐えられなくなった。
あの人の傍に居る事に。
好きで好きで堪らない。
だけど、傍に居てあの人が傷つく姿を幾度と無く見る度に私の心は軋み始めた。
何も出来ない自分に対する歯がゆさ。
それが心を傷つけ想いを曇らせていく。
それに耐えられなくなったのだ。
私は自分を守る為に私は逃げたのだ。
そんな愚考な行いをした私を未だに想い続けてくれている彼は優しすぎる。
嗚呼、どうせなら愚かだと醜悪だと罵ってその手で壊して欲しいと望むのに。
貴方はどこまでも優しく私を包み込もうとする。
私はそんな優しさに触れてまた貴方への想いを募らせる。
愚かだと神は笑うでしょう。
それでも私という人間は不器用で愚かだからそうするしかないのだ。
気付けば涙が流れ出し、寂しさが私を襲う。
そんな寂しさを紛らわそうと自らを抱きしめた。
その時だった。

「何、しけた顔してんだよ」
「・・・・はや・・・と・・・・?」

久々にこんなにも近くで響く愛おしい声に私は全ての神経をその声の方向へと向けた。
紛れもなくそこには不機嫌そうな顔をした彼の姿があって。
私をその不機嫌そうな顔の下から溢れる優しさを持って心配しているようで。
もう、止まらなかった。
想いが、望みが、欲望が。

「なんで、なんで来たの?あんなに酷いことしたのに。
貴方を裏切ったのに、傷つけたのに。なんで・・・?優しくするの・・・?」

私の問いはいとも容易く切り捨てられた。

「お前が思っている以上に俺はお前が好きなんだよ。そんだけ大切なお前を俺は簡単に手放す気にはならねぇ」

率直に答え、気持ちをぶつけてくる姿に私は顔を歪めた。
温かな彼の腕に抱かれた途端、私はひたすら声を上げた。

「ごめん、なさい!!ごめんなさい・・・!!」
「もう、良いって言ってんだろ?・・・だから、離れるなよ。もう二度と」

私のエゴさえもその優しさで包んでしまう彼の温かさに。
私は何度も涙を流した。
止まる事のない想いが具現するかのように。
今、私はどれほど幸せなのでしょうか。
こんなにも大切な人に抱かれ、想われ。
嗚呼、貴方の為ならばもう私は離れない。
貴方の望みを叶える為に身も心も捨てましょう。
壊れるならば貴方の為に。
そう、私はその日誓った。
全ての負なる想いはその日に振った六花と共に消えていった。