不敵に笑う貴方にやられた!と思った時には遅くて。
ああ、いつもいいようにされてしまう。
なんだかとても情けないのに。
それでもいいとすら思ってしまう俺は重症だろうか。






絡まる指に愛を感じて







「ああ、ツナ。私はそろそろ帰るよ」

先程まで十代目や山本の野郎などを交えて話をしていたが時計を見たさんは少し残念そうに笑いながらそう告げた。

姉、帰るの?止まっていけばいいのに。実家なんだからさ」

十代目のその残念そうな声に思わず俺ももう少し居て欲しいなどと思ってしまう。
けれど、さんは身支度を整えながら困った表情を浮かべた。

「明日はバイトがあるからまたの機会にな」
「それなら仕方ないか。でも、今から一人で帰るのって危ないんじゃ・・・」

もっともらしい十代目の言葉。
しかし、さんはへらっと「私を襲う物好きなんていないさ」とあしらってしまう。
本当にこの人は自分の魅力に気付いてないのか。
俺は少し頭痛を覚えた。
そして、立ち上がり取ろうとしていたさんの荷物を横から掠め取り、立ち上がるとにっこりと笑って告げた。

「安心してください!十代目っ!!俺が責任を持ってさんをお送りいたしますから!!」
「ええっ!?」
「そこまでしなくても大丈夫だぞ?隼人」

驚く十代目や謙虚に断ろうとするさん。
だけど、そんな遠慮はいらないのだ。
十代目の大切な御方だからということもある。
だが、それ以上に初めて惚れた大切な女なのだから危険な目になんて絶対に遭わせたくなどない。
言ってみればこの申し出は自分の為なのだ。
だから、にっかっと笑うとはっきりと告げた。

「いえ!!さんに危険な目なんてとんでもないっすから!
それに、帰り道もほとんど一緒ですし、遠慮しないでください!」

そこまで言ってしまえば彼女は何も言い返すことが出来なくなって。
はにかむように笑いながら「頼む」と了承してくれた。
そして、俺たちは十代目の家を後にして帰路についた。

「んー夜風が気持ちいいなぁ。今日は天気もいいし」
「そうっすね」

夜風が遊ぶようにさんの長く綺麗な髪を空中に漂わせ舞わせる。
その髪が自分の頬を掠めたのかさんが目を細くしてくすぐったそうに髪を払った。
そんな仕草を食い入るように見つめては囚われてしまう。

「そういえばありがとうな。隼人。送ってくれて」

唐突に告げられた礼の言葉に我に返った俺は顔を少し赤らめながら否定する。

「い、いえ!!当然のことをしたまでっすよ!だからそんな礼を言われるようなことじゃないっすから!!」
「それでもありがとう」

笑顔と共に再び告げられた言葉に俺はもう従うしかなくてやや下を向いて「いえ」と言うのが精一杯だった。
それから暫くまた無言が続いたのだがその沈黙すらも心地よく感じる。
そんな折、さんは俺の名を呼んで呼び止めた。

「なぁ、隼人」
「なんですか??さん・・・っ!?」

呼び止められて振り返るとさんは俺の右手を掴んで自分の目の前に掲げた。
急に触れられた事で俺の心音は一際激しく高鳴り始める。

「お、俺の手がどうかしましたか??」
「いや・・・綺麗な手だなぁって思って」

きっと思った事をそのまま口に出しているのだろうけれど。
言われなれない聞きなれぬ言葉に俺はしばらく固まってしまう。

「あ、男に綺麗は褒め言葉じゃないか?」
「あ、いえ!!でも・・・」

ふと思い立ったことがあって俺はさんの掌を見つめると息を吐くのと同じぐらいに自然に告げた。

「俺は、さんの手のほうが綺麗だと思います」

真顔でそう告げるとさんはパチクリと目を瞬かせた。
そこでようやく俺は何をいっているのだろうかと気付き手を解こうとした。

「あ、す、すみません!!俺、何言ってんだか・・・!」
「ぷははははっ!い、言ってからそんなに照れられてもなっ!!」
「うっ・・・・!」

凄い勢いで笑いながら手に力を入れられたものだから離れられない。
俺はただ空いているもう片方の手で顔を覆った。
しばらくして笑いが収まってくるとさんは俺に向かって告げた。

「悪い悪い!笑いすぎたなぁ!!」
「い、いえ・・・」

少し落ち込みながら様子を伺うように顔を上げるとさんはふっと笑った。
そして、先程から握っていた手を握り直すとそのまま俺をひっぱって歩き出す。

「折角だし、このまま手を繋いで帰ろうか?」
「え!?さんっ!?」
「口説き文句なんて言ったぐらいなんだから
手を繋ぐぐらいどうってことないだろ?それに隼人の家は反対方向だったよな?」

そう、不敵に楽しげに笑われて俺は何も言えなくなる。
これは完全に遊ばれていると気付いたから。

「本当に、さんには負けます・・・」
「なんのことだか?」

とぼけるさんを尻目に俺は顔を紅く染めながら付き従う。
俺を振り回すなんてさん以外にできない。
そんなさんを好きになった俺も結構な物好きなんだろうか?
でも、そんなことが気にならないぐらい俺はさんが好きで。
絡まりあう指の体温に酔う。
そして、まだこの時が続けばなんて思ってしまうのだ。



(なんだか曖昧な関係だけどそれでもいいと思ってしまう重症な自分がそこに居た。)
(でも、いつかはきっと・・・)