今日も私は愛おしい貴方を見つめています。
貴方に愛されずとも、貴方が気づかなくとも。
貴方の事を詳しくは知りません。
至高の存在である貴方の事。
それでも私の胸は苦しくて切なくて。
愛おしいのです。






禁断







私は異世界の人間です。
こことは違う世界から堕ちてきた。
何故だかはわからない。
けれど、帰る事も出来ずに呆然と立ち尽くしていた時、あの人に出会った。

「お前は誰だ?」

漆黒で構成された神々しい青年がそこには立っていた。
今、思えば神々しいのは当たり前だ。
なんせ、神様だったのだから。
その時の私は神だなんて知らなくて逆に問い返した。

「貴方こそ誰?ここはどこ?」
「ほぅ・・・変わった娘だ。私を知らぬとはな。だが、おもしろい。微かに纏いし神の小宇宙にも興味がある・・・」
「小宇宙・・・?神・・・?」

聞きなれぬ言葉に私は鸚鵡返しをしてしまう。
すると、急に私は体の力がガクリと抜けてしまった。

「え・・・?な、に・・?力が入らない・・・」
「地上から来たのか・・?この冥界の空気に当てられたのだろう。娘、私の名はハーデス。この冥界を統べる者。お前の名はなんだ・・・?」

冥界だとかわけのわからない単語が飛び交っていたが私は素直に名を言った。


「そうか・・・か・・・よい名だ。全て説明してやる。
が、ここで話すのはあまり体によくないだろう。冥界の空気に慣れるまでは毒だからな」

そう言うとハーデスは私の体を抱き上げた。
所謂、お姫様抱っこで。
私はあまりの気分の悪さに照れる事も恥ずかしがる事も出来ずに薄れ行く意識の中。
ハーデスの声を聞いていた。
それから目を覚ました私は彼に詳しい話を聞いた。
互いに話せば話すほど違うことが多く。
結論、私は異世界に来てしまったのだと判明した。
しかも、帰る方法もわからない。
するとハーデスは冥界で保護してやると言って衣食住の全てを世話してくれる事になった。
そんな彼の優しさに触れた私が恋に落ちるのはごく自然な事だった。

「はぁ・・・」

そんな事を思い出していると無意識に溜息が出た。

「どうしたのですか?
「あ・・うん。なんでもないよ・・・パンドラ」

心配気に私を見つめるパンドラに「本当に何にもないって」といって紅茶を口に運ぶ。
するとそこに天猛星のラダマンティスが現れた。

「失礼します。パンドラ様」
「ラダマンティス?どうかしたのですか?」

急に現れたラダマンティスにパンドラは不思議そうにそう尋ねた。
するとラダマンティスの視線はパンドラではなく私に移った。

「いえ、パンドラ様ではなくに用があったのです」
「私・・・?」
「ああ・・・ハーデス様がお呼びなのだ。何故だかはわからぬが・・・」

ラダマンティスも不可思議だといった表情を浮かべてそう告げた。
私も何かしただろうかと首を傾げて考えるが思いつくような事はなく取り敢えず立ち上がった。

「何だろうね?まあ、いいや。じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「はい。気をつけていてらしゃい。

パンドラの見送りを背に私は足早にハーデスの元へと向かった。
そして、ハーデスの玉座の前に立ち、ノックをしようとした瞬間。
中から声が響いた。

。入れ」
「あ、は、はい?失礼します」

私は控えめに扉を開けて中に入った。
そこにはいつもとは違いラフな格好をしたハーデスが居た。

「は、ハーデス様?」
「どうかしたか?」
「あ、いえ。いつになくラフな姿だったので・・・・」
「ああ。それには訳があってな。お前を呼んだ理由とも繋がるんだが」

その言葉に私は首を傾げた。

「私を呼んだ理由とですか?」
「ああ。これからお前を連れて地上へ出ようと思ってな」
「地上にですか!?」

私は珍しいなと驚きの声を上げた。
するとハーデスは「嫌か?」と問い掛けてきた。
むしろ私はこの世界の太陽の有る地を知らぬ為、嬉しくて仕方がなかった。
そんな私は首を首が取れるのではないかという勢いで横に振った。

「そんなことないです!むしろ嬉しいです!!」

満面の笑みを浮かべて答えるとハーデスも穏やかな笑みを浮かべた。

「そうか。喜んでくれて何よりだ。最近、元気がないように見えたのでな」

唐突に呟かれた言葉に私は「へ?」と顔を上げた。

「私の気のせいだったか・・・?溜息ばかりついていたであろう?」
「あ、はい・・・まあ・・・」
「お前はすぐに溜め込むからな。気軽に望む事を申していいのだぞ?」

私は先程からハーデスの発言に驚いて反応できないでいた。
何故、神であるこの人がこんなにも私に気をかけてくれるかわからなかったからだ。
そんな気持ちを読み取ったのかハーデスは私の髪をひと撫でして言った。

「何故、私がにそこまでするか興味があるようだな」
「はい・・・だって、私なんてただの人間だし・・・」
「私はだから大切にしたいのだ。大切なだからこそな」
「え・・・・?」

意味深な言葉を囁くとハーデスはふっと笑い私の手を握り歩き出した。

「ほら、行くぞ?」
「え!?あ、あの!?ハーデス様!?今の言葉の意味は・・・?」
「さあな」

意地悪げにそう微笑む姿を見て私は暴れだす心臓を止めることができなくなっていた。
そんな私を知ってか知らずかあの人は握る手の力を強めた。
少し頑張ってこの恋を進めてみようと思った瞬間だった。



神と人との境界を越えて禁断への一歩を踏み出してもいいですか?