ある日の夕食。

「御馳走様。あとは悟空にあげる」
「え!?全然食ってないじゃん!?」
「何か食欲なくて・・・じゃあ、ちょっとブラブラして来る」

そう言って足早にその場を後にするに面々が心配げにその背を見送った。
たまにはそう言う時もあるだろうと八戒の言葉に面々も渋々納得したが
その次の日もまたその次の日もは食事をろくに口にせずどこかに消えてしまう。
流石に四日目ともなると面々の心配は頂点に達した。






乙女の悩み







。どこか体調が悪いんですか?最近、殆ど食事を取らないじゃないですか」
「・・・・・・」

夕食時にふらふらと皆の所から抜け出したを一人追って来た八戒が呼び止めて
そう訊ねるがは気まずそうに顔を逸らすばかりだった。
八戒は不安げに顔を歪めるがはその表情すら見ようとしない。
八戒が代表してを追って来たのは相談役として
一番良いと言う理由だけではなく、の恋人だと言う理由もあった。
食事をあまり食べなくなってからどことなく避けられている節も見られたのだ。
それについても訊ねてみたいと思った八戒が
自分が事情を尋ねると告げて二人っきりになる時間を取ったのだが。

。どうして僕の顔を見てくれないのですか?
最近、僕の事を避けていらっしゃるようでしたし、もしかして僕の事が嫌いになりましたか?」
「そんな事ないよ!」
「なら、どうしてですか!?」

はっきりしないに声を荒げてしまった八戒。
肩を上下にびくっと揺らして俯いてしまったを見て冷静さを取り戻した八戒は小さく謝った。
はそんな八戒に首を横に振ってぽつりと呟いた。

「いいの・・・八戒が怒るのだって当然だし・・・」
「いえ、でも・・・」
「わかったわ。ちゃんと話す」

観念した様にがそう告げたので八戒は気を取り直してもう一度訊ねた。

「では、何故最近食事をまともに取らなかったんですか・・・?」
「それは・・・その・・・この間、宿屋で・・・
じゅう・・・ったら、ちょっと、ふ・・・・ちゃって」
「え・・・?」

余りに小さな声で呟かれた為、聞き取れなかった八戒が疑問の声を漏らすと
は俯いていた顔を勢いよく上げて叫ぶが如く言った。

「だから!この間の宿屋で体重計に乗ったらちょっと太っちゃってたの!!」
「・・・・は?」

何か深刻な理由があるのかと思っていたら想像もしなかった理由で間抜けな声を上げる八戒。
対するは恥ずかしいのか顔を真っ赤に染めながら額を顔を両手で覆っていた。
拍子抜けしていた八戒はすぐに我に返ってに続けて問う。

「・・・食事を抜いていたのはダイエットの為だったんですか」
「そう!食事を抜いて何処かに行っていたのはそこらを歩いて少しでも体重を落とそうとしてたのよ。
そんな事恥ずかしくて言える訳もないし、曖昧にぼかしてたのに何で聞いちゃうのよ!!馬鹿!!」
「す、すみません。じゃあ、僕を避けてたのは?」

の気迫に押されて謝りながらも八戒は気になっていたもう一つの事を訊ねた。

「だって、太った事が知られたら嫌われるんじゃないかとか、
折角八戒が作ってくれた食事残しちゃって会わせる顔がないとか思って・・・」
・・・」

そっぽを向きながらもそう呟く恋人を前に八戒は嬉しげに微笑む。
そして、そっとの腰に腕を回すとしっかりと抱き寄せた。
突然そんな事をされたは暴れ出すがそこは男女の力の差でびくともしない。

「は、八戒!離して!!私、今太っちゃってるし、恥ずかしい!」
は気にし過ぎですよ」
「で、でも・・・」

暴れる事はやめたが納得していないに八戒は笑顔を浮かべたまま続けて言った。

「第一は痩せ過ぎな位なんですから少々太った位で嫌いなんてなりませんよ。
だから、ちゃんと食事は取って下さい。倒れたりしたらそれこそ大変です。
もし、どうしても体重が気になるなら僕が協力してダイエット用の献立を考えますから」
「・・・うん。ごめんなさい」
「いえ、判ってくれたならいいんですよ」

しょんぼりとするを慰める様に頭を撫ぜてやる。
すると、ふいに「あ」とが声を上げたので八戒が不思議そうに見つめると勢い良くが顔を上げる。
何事かと思えばどこか怒った表情では言った。

「よく考えたら私ばっかり謝るのは間違ってる!!」
「へ?」

またいきなり突拍子もない事を言われて目を丸くするとはそのまま機関銃の様に言葉を続ける。

「だって、元はと言えば八戒の料理が美味しいのが悪いのよ!
美味しい上に多くても残したら悪いかなぁとか思って食べてたら太ったんだから八戒にも責任はあるじゃない!」
「は、はぁ・・・?でも、それは屁理屈・・・」
「じゃないの!!八戒だって悪いのよ!!」
「す、すみません」

物凄く理不尽に責められているのは判っていたが八戒は気迫に圧されて謝罪の意を述べた。
それでも理不尽な怒りは収まらないらしいは続けて言った。

「反省の為、暫くお触り禁止!!」
「ええ!?そこまで僕が悪いんですか!?」
「乙女の体重増加程重い罪がある?それとも何?文句あるの?」

ぎろっと凄まじい眼光で睨まれて怯む八戒は苦笑いを浮かべると肩をがっくりと落とした。

「・・・・ありません」
「判ったならいいわ。はぁー怒ったらお腹空いてきちゃった。早く皆の所に戻りましょう」
「・・・・はい」

いつものに戻ったものの八戒は凄く落胆し、心の中で嘆いた。

(どうも僕が大損した気がするんですが・・・はぁ・・・)

だけど、それを言った所でどうなる訳でもなく、
これ以上愛しい恋人の機嫌を損ねるのもと思い、結局、泣く泣くその後を追っていく八戒であった。


それは触れてはならない乙女の逆鱗。
(悟浄、女性の扱いって難しいものですねぇ・・・)
(お前も尻に引かれてるからな・・・)