応龍の神子。
龍神の導き手。
全てを見通し京を守る者。
龍達の母たる存在であり、愛を受ける存在。
神子はその身に龍の寵愛を受け、全てを捧ぐ。






龍へ捧ぐは全て







!」

長い透き通るような水色をした髪を揺らしながら走る青年。
どこからどう見ても人に見えるこの青年が龍神だと知れば幾人が驚くだろうか。
薄っすらとそんな事を考えながらあまりに無垢な龍を見つめる。

?何か考えているの?」
「いや、なんでもないよ。それより白龍何か用があったんじゃないか?」

心配そうに顔を覗き込む白龍を制して私がそう告げると彼はそうだったと嬉しそうな顔をして私に何かを差し出した。
その差し出されたものは花をあしらった髪飾りだった。

「どうしたんだ?これ」
「さっき神子達と一緒に市へ行って来た時にに似合うと思って買ったんだよ」

その言葉を聞いて私はそれを手に取った。
細やかで繊細なその髪飾りは一級品と言っても良いだろう。

「これを私にくれるのか?望美にではなく?」

私がそう問いかけると白龍は不思議そうな顔をした。

「そうだよ。何故、神子にあげるの?これはの為に買ってきたものだ」

私よりも自らの直系の神子を一番寵愛する。
それが龍だと思う私にとって白龍の言葉は少し驚きを抱く。
しかし、結局のところこの龍が幼いからかと思い至った。
この龍はどこまでも幼い。
まだ、人の世に降り立ちあまり時が立っていないからだろう。
外見は青年でもまだ心は少年のままだ。
だが、その幼さがまたこの龍を美しく見せているのだろうと私は思った。
そんな考えに至った私は髪飾りを素直に受け取り髪につける。
そして、白龍に向かって微笑んだ。

「似合うか?」
「うん!やはりに似合う。私の思った通りだ。でも、髪飾りよりの方が綺麗だね。どんなものもの美しさには適わない」
「・・・・っ!」

この龍は無垢過ぎる。
恥ずかしげもなく甘い言葉を紡ぐこの龍はある意味厄介だ。
思わず自分が恥ずかしくなり顔を背けてしまった。
だが、それに気づく事もなく白龍は私の隣に座った。

「私は幸せな龍だ。私のような弱い龍が応龍の神子に出逢えた。逢う事など叶わないだろうとさえ思っていたのに本当に私は嬉しい」
「・・・白龍」

彼は心を偽ることがない。
それゆえに今の率直な彼の言葉に私は顔を歪めた。
そして、気づけばその身体を抱いていた。
白龍の髪が私の腕に流れる。

?どうしたの?」
「白龍。白龍は弱い龍じゃない。強く優しい龍だよ」

そう言って頭を撫でてやった。
応龍の神子だからかわからない。
だけど、この龍を悲しませたくないと思う。
愛おしいとさえ思う。
昔からいつか出逢うこの龍に私はずっと恋焦がれていた。
欲しくもない未来を見るこの力で彼を幾度も見た。
その中で彼に想いを募らせてきた私は彼を守り大切にしようと誓っていた。
出逢ったその瞬間から。
決して許されない恋だ。
龍はいつか天に昇る。
でも、わかっていても人は想いを募らせ、湧き上がる欲望と共に望み、願う。

が言うならそうなのかな。私は人とは違うから強いは力の強さしか知らない」
「ああ、白龍。お前は強い。優しさは一つの強さだよ。
お前が今のありのままの龍でいてくれる事を私はいつも望んでいるよ。
そして、白龍が幸せになる事もね。龍にだって幸せになる権利があると私は思うから」

私がそう言えば白龍は少し驚いた顔をした後、優しく優しくどこまでも優しく微笑んだ。

「私は幸せだよ。こんなに思ってくれるがいる。だから、私はの願いを叶えたい。力を取り戻したら必ずが望む本当の願いを叶えたい」
「・・・白龍。そう、だね。私の願いをいつか叶えてもらおうか」

白龍の言葉に偽りがないのはわかる。
でも、決して私の願いを叶えることはできない。
私の願いは禁忌に近しい願いだから。
どこまでも愛おしい龍との永久だから。
きっとこの願いを告げることはない。
私は人だから嘘をついてしまったよ。
それでも、幸せにしたいという気持ちには嘘はないと私は再び彼を強く抱いた。
すると白龍もそれに応える強く抱きしめる。

「好きだよ。私の

そう私の耳元で呟く声が聞こえて私は涙を堪えながら紡いだ。

「ああ、私も好きだよ。私の龍」

どこまでも美しく純粋無垢な白龍の好意。
どこまでも貪欲で醜悪な人である私の好意。
どちらも決して止まることのない愛。
一心に私は彼の愛を受ける。

それはとしてなのか応龍の神子としてなのか。
私はどちらであってもきっと白龍を愛し続ける。
遠き幼き頃から愛し、恋焦がれてきたこの龍を。
例え、その先に悲しみが待ち受けていようとも。
愛しい龍に全てを捧げて尽くすだけだ。