雲雀恭弥。
彼はいつも一人でいる。
群れる事を好まない。
そんな彼が何故か私を傍に置く。
彼は不思議な人だと私は思う。
少し難解な愛を孤高な貴方と
「先輩ー雲雀先輩ー!人呼びつけておいて何寝てるんですか?」
授業中にメールが来て呼び出された私は授業をしていた教師にそのメールを見せて授業を抜けてきた。(その時の教師の顔は真っ青)
教師陣さえ怯えさせる雲雀恭弥。
彼は最近やたら私に付き纏う。
さらに言えばいつのまにやら彼の委員会の委員の一人になっていたりする。
彼の考えることは理解し難い。(彼のする事も以下略)
「ああ、来てたの。あまりに遅いんで寝てしまったよ」
「遅いって・・・三分しか遅れてませんが?」
「時間はきっちり守れと言った筈だよ。それとも噛み殺されたい?」
そう言ってチャキッっという音が響く。
また愛用のトンファーを構えている彼を見て私は深い溜息を吐く。
「はいはい。わかりました。以後気をつけますー」
「はいは一回」
「はーい」
私は間延びした返事をするとソファに腰をかけた。
テーブルの上に散らばっている書類を拾い、重ねる。
無言の空間にしばし紙が擦れる音が響く。
その間にも彼はじっと私を視線で射抜く。
何が言いたいのかなんて察することは不可能なので問い掛けてみることにした。
「で、先輩。なんの用なんですか?」
そう口にしてみると彼はいつもと変わらぬ表情で言葉を返した。
「別に。用なんてないよ」
私は一瞬固まった。
あまりにもあっさりと断言されてどうすればいいかなんてわからなくなった。
気まぐれで人を呼んでは時間を厳守しろなんてやってること無茶苦茶。
支離滅裂というものだ。
だが、それがこの人の性格の為、私は諦めたように溜息を吐いた。
「そうですか。まあ、いいですけどね」
「そう。ところで君から見た僕ってどんなの?」
また唐突な一言に私は思わず首を傾げる。
気まぐれは気まぐれだがいつもはこんな事を口にすることはない。
人の顔色なんて根本的に伺うタイプではないし。
はっきり言って今日の彼は変だと思う。
「いきなりどうしたんですか?今日はまた一段と無茶苦茶ですが」
きっぱりと思ったことを告げてみるがやはり彼の表情は変化の色を見せない。
ここまでくればポーカーフェイスも中々のものだ。
「別に。なんとなくそう思ったから聞いたんだよ。それよりはやく答えてくれない?僕はあまり気が長くないんだ」
相変わらず唯我独尊を貫く彼の台詞に私はもう完全に諦めることにした。
とりあえず私は質問の内容に答えようと考えに専念する。
しかし、どう?と言われたところでどう言えばいいのかはわからない。
私は率直に答えることにした。
「よくわからないです。というか不思議です。なんで私なんかを傍に置くのだろうとかやることなすこと全てが」
常日頃から思って居ることを言ってみれば彼は笑いを浮かべた。
「ワオ。キミって予想以上にバカ正直だね」
嫌味を微笑しながら言われた私は特に気にするわけでもなく切り返す。
このへんももう慣れたものだ。
「それはありがとうございます」
「褒めてないから」
「わかってますよ。それぐらい」
嫌味を言われることも気にせずに私は紅茶を入れようと立ち上がる。
すると急に後ろから抱きすくめられた。
誰がやったかなんて一人しかいないのだからすぐわかる。
私は柄にもなく頬が火照るのを感じる。
それを決して悟られることのないように私は冷静を装って言った。
「いきなりなんですか?」
幸い声が裏返ることもなく、それなりに冷静に返せたと思う。
多少、声が震えていたが。(きっとそれは慣れない状況の緊張の為で。)
「そうだね。そろそろ隠すのも飽きてきたところだし、はっきりさせようかと思って」
すると彼はふっと笑ってそう言った。
「何を・・・」
疑問を抱き、「何をですか」と聞く前に私の唇は彼のそれで塞がれていた。
私は何が起こったのか理解する間も無く、ただ目を見開き彼のあまりにも近くにある相貌に見入った。
黒く艶やかな髪が陽の光に照らされてきらきらと眩しかった。
それは本当に数秒の出来事ですぐに唇がリップノイズを響かせ離れる。
すると彼は静かに言った。
「キミが好きだよ」
それは彼には余りに似合わぬ言葉で私は一瞬固まった。
「・・・それは本気ですか?」
しかし、意外にも私は冷静に切り替えした。
結構混乱はしている筈なのだがわりと落ち着いていたのだ。
彼が嘘を吐くことなどないから余計にこれが真実だという確信があったのかもしれない。
「本気以外で言うように見えるの?」
彼の視線や言動全てが私に信じろと訴えかけてくる。
信じているのだからそもそも嘘だとは思っていないのだが。
やはり人間の性で尋ねてしまっただけであるのだ。
「見えません。でも、なんで私かがわからないから」
そう素直に呟けば彼はただ告げた。
ただ真実だけを告げた。
「気付いたら好きになってただけだよ。そもそも人を好きになる基準なんて曖昧なものだ。
好きになる気持ちに基準なんて存在しないのだから説明しろと言われてもできるものじゃない」
彼の言う事はどこまでも真実であり、真理だった。
甘い言葉が脳を刺激する。
心を刺激する。
何故か満ちたりた気分になる。
それはどこまでも果てしなく優しく今までに感じたことのない感覚だった。
「それもそうですね」
私が納得してそう頷いて見れば不思議そうに見つめてくる雲雀。
「キミ、妙に落ち着いてるね」
「はぁ、なんか謎が解けたって感じですから。
群れるのを好まない人がなんで私に接するんだろうって思ってたものですから」
私は率直にそう言うと彼は少し微笑を浮かべた。
「キミは本当に素直だね。そういうところが好きになったのかもしれないけれど」
「そうですか」
「で、返事は聞かせてくれる?」
早急だなと薄っすら思ったが元来、マイペースな人だから今更かと思い私は思考に耽ることにした。
とりあえずキスされたことは嫌じゃなかった。
彼の傍に居るのも嫌悪感などはなく。
むしろ心地よかった。
嗚呼、なんでここまでわかっていて私は気付かなかったのだろうか。
そう、ようやく思った。
私は何時の間にやらこの人が好きになっていたらしい。
まあ、恋なんてそんなものなのだと思うが。ようやく全てに合点がいくと私は素直にいつもと変わらぬ表情で言った。
「たぶん好きです」
「・・・たぶんは余計だよ」
たぶんという単語に彼は不機嫌を露にする。
「そうは言われても恋なんてしたことないですから」
そう言ってみれば彼はクスリと笑って私の腰を抱き寄せる。
私はその仕草に微かに肩を揺らした。
きっと今の私は顔を朱に染めているだろう。
だって、彼に聞こえるのではないかといぐらい心臓の音が煩いのだから。
そんなことを知ってか知らずか彼は言葉を紡いだ。
「そう、まあキミらしい答えだからいいよ。許して上げる」
彼はそう言って微笑を浮かべると再び唇を重ねた。
ただ、優しく甘く。
キラキラと光る青空を映す窓を背に。
私を愛してくれた人は何よりも気高く壮麗だ。
そして、純粋に物事を見抜く人。
言葉にし切れない難解な愛を私は彼から与えられたのだった。
それは深く深く温かいものだった。
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