遠ざかる意識と共に黒く塗りつぶされる視界。
しばらくして気付いて瞳を開けると、そこには楽園のような世界が広がっていた。
無限に華の咲く白い楽園。






泡沫の逢瀬







無限に広がるその様々な華が咲く白い空間。
先程まで居た無機質なコンクリートがひしめき合う世界と正反対。
何故、自分がこんな所にいるのかなどわからずとりあえず体を起こす。
立ち上がろうとしたが体が重く上手く動かない。
すると、ふいに雲雀の背後から声が響いた。

「これは・・・珍しい。この世界に私以外の人物が居るなんて」
「誰?」

振り返って見てみればそこには双方の瞳の色が違う女が居た。
左は血の様な紅、右は空の様な蒼。
そして、さらりと腰まで流れる漆黒の艶髪。
黒衣から伸びる白い腕や足は艶かしく美しい。
その女はそっと微笑むと告げた。

「私は、六道
「六道・・・?」

雲雀は、聞き覚えのある名前に顔を歪める。
しかし、はその理由も全て悟っているように言葉を続ける。

「先程、貴方と戦ったのは私の弟ですから。雲雀恭弥さん」
「ふん・・・全部知ってるってわけ?」
「ええ、直接見ていた訳ではないですけれど。私は、ある程度は弟を介して情報を得れるものですから」

は「これで」と言って自分の左目を指差す。
そして、その手を下ろすととそっと雲雀の隣に腰を下ろした。
雲雀は警戒してトンファーを構えるがは一向に気にする様子もなく怪我に触れる。
すると、その触れたところからふわり光り痛みがすっと溶けるように消えていく。
何故、敵である筈のがこのような治癒を施すのかはわからなかったが雲雀はとりあえず警戒を解いた。
敵意が全くないと感じ取ったからだ。
しばらく沈黙があたりを包むが治癒行為を終えたが再びその沈黙を破る。

「これで、少しは痛みが引くでしょう。この空間ではこれが限度なんで申し訳ないのですが」
「・・・君は、どうしてこんなことをする?」

先程から抱えていた最もな疑問をぶつけた雲雀には寂しげに笑った。

「私は・・・戦いを望みません。
それに、弟がしている事が過ちだとすら思います。それでも、私には力はなく弟を止める事すらできません」

瞳を伏せて苦しげに告げられる言葉。
雲雀はただ、黙ってその言葉を聞き続けた。

「身勝手だとは思います。できぬからといって人に頼るのは。ですがそれでも縋るしかないのです。貴方達に・・・」
「ふーん・・・別にいいんじゃない?縋られようがどうしようが僕は僕でやらしてもらうし」
「雲雀さん・・・そうですね。貴方はそういう方ですね。でも、それが貴方の優しさであり、強さだと私は思います」

予想外の言葉に雲雀は瞳を丸くするがすぐそっぽを向いてまたぶっきらぼうな言葉を放つ。

「勝手に言ってなよ」
「ええ。そうします」

ようやく嬉しげな笑みを見せたにふっと傍目にはわからぬ微笑を浮かべる雲雀。
そんな穏やかな時が流れ出した瞬間、急に辺りの空気が変わった。
それに気付いた雲雀はを見る。
はまた寂しげに笑う。

「そろそろお別れのようです。また、貴方は戦いに身を投じる事となると思います。
もう会う機会がないかもしれません。ですが、ただ祈ってます。貴方の無事を」
「またおもしろいことを言うね。一応敵だと思うんだけど」

皮肉を含めたように笑う雲雀にも苦笑を浮かべる。

「それでも・・・貴方には生きていて欲しいと思うので」
「そう・・・」

出会ってたった数分。
ただ、それだけの時間で感じた何か。
それを互いに理解はしていないけれど。
それでも、何かを感じ取っていた。
だから、互いに想いは一緒だったのかもしれない。

「君も、死ぬのは許さないよ。人に死ぬなって言っているのだから」
「・・・ええ。死にません。それでは・・・さよなら、雲雀さん」

最後にその声が響いたと同時に辺りの花は散り、多くの花弁が舞い上がり。
そして、最後にまた視界は黒く塗りつぶされた。
再び雲雀が瞳を開けるとそこには無機質なコンクリートがあって。
先程の出来事が嘘のようだった。

・・・か」

呟く名とそっと握った手の平にある感触。
その握られていた手の中から白い花弁が舞い落ちた。
それが雲雀に先程の出来事が実際にあった事だったと教えたのだった。
もう一方、は瞳をそっと開けて目を覚ますと扉の方から声が響き、それに反応して身を起こした。

。眠っていたのですか?」
「ええ、骸。夢を見ていたわ。とてもいい夢を」

そう笑うに骸はとても不思議そうな表情を浮かべたが、の嬉しげな顔に満足して笑顔を浮かべる。

「そうですか。それはよかったですね」
「ええ・・・ところで私に何か用事があったのでは?」
「いえ、ただ様子を見に来ただけです。大切な姉であるが最近は浮かぬ表情でしたから」

心配げにを抱き締める骸。
その腕の温もりには悲しげな笑みを浮かべた。

「大丈夫よ。少し疲れていただけ。ごめんなさい。心配をかけて」
「いえ、構いませんよ。元気ならばそれで。では、僕はまた少し出かけますからゆっくりしててください」
「ええ。いってらっしゃい。骸」

そう告げて去っていく骸の背を見つめ続ける。
そして、その姿が消えて完全に扉が閉まるとは窓を眺めた。

「どうか・・・双方に幸があらんことを・・・」

願うばかりしかできぬ非力な自身を呪い、大切なものの幸福を祈った。
そして、瞳に焼き付く彼の者との再会を夢見るように再び眠りへとつく。



(泡沫の夢の花園で出会えた二人の行く末は如何なる道を辿るのだろうか?)