茜色の空の下、鳴り響く心。
それはまるで警告音にも似ていた。






晩鐘







平凡かつ憂鬱な日常。
何一つ乱される事のない平穏な日々。
それが延々と続くのだと私は思っていた。
それ以外の道などないと思っていた。
なのに、目の前の男は現在進行形で全ての平穏を奪いつくそうとしていた。

「ねぇ?聞いてる?」
「・・・なんですか?」

彼の声に思考の海から引きずり上げられた
私は視線をきっちり彼の瞳へと結び見つめ続ける。
彼の視線も力強く私の瞳を見つめる。
その彼の瞳はどこまでも獰猛な獣のような色を窺わせていた。

「本当に君変わってるね」

「怖がらない所がですか?
そう言う人が希望なら余所を当たって下さい。って言うか出来れば貴方とは余り関わりを持ちたくないんです」

きっぱりさっぱりとそう言い切ってやれば彼は暫く間を空けてクスリと笑いを浮かべた。

「残念だけど関わりを持たせてもらうことにしたよ」
「あの、本当に意味わかんないんですけど?っていうか人の話聞いてます?ちゃんと聞く気あります?」
「ないよ。そんなの。僕は僕のやりたい様にさせてもらう」

嗚呼、ヤバイ。
そう思った。
心の奥底から本能的にそう感じた。
警戒音が鳴り響き、私に逃げろと命令する。
けれど、足は動かない。
瞳も彼を縫い付けるように見つめ続けている。
まるで、金縛りにでもあっているようだ。
彼のその獰猛な意志の力で。

「君はもう逃げれないよ。僕から。永遠にね・・・」

断言しきったその宣言に私は何の反応も示さなかった。
すると、彼はふと笑って私の唇を掠め取る。
まるでもうお前は自身の所有物なのだと知らしめるように。
だけど、それは本当にそうなのかもしれない。
私は、彼を拒めない。
きっと、何があっても。
その全てに魅了されてしまった私には。
もう、逃げる道など残されていなかった。
本当ならば出会った瞬間に逃げなければいけなかったのだ。

。さあ、行くよ」



嗚呼、もう晩鐘は聞こえない。
(私の全てを貴方という殻が包んでしまったから。)