久々に街に出た。
本当に久々過ぎて日光が眩しくて眩しくて数秒目が開けられなくなる。
それから暫くして漸く目が開けられるようになった俺は蒼い蒼い雲一つ無い空を見た。
その蒼は俺の想い人の蒼と余りに同じで何だかとても満ち足りた気分になった。






沈黙少女、どうか僕に小さな幸せを







ん?あれ・・・?
雑踏の中を行く当てもなくぶらぶらと彷徨い歩いているとどこかで見た事のある後姿を見つける。
一体、何をしているのだろうかと首を傾げて近付く。
が、直ぐにまた足を止めた。
それは予想外な驚きによるものだった。
見た事のある後姿はこの空の色の様な俺の想い人で漆黒のワンピースを纏い、同じく漆黒の髪を躍らせたこの青空の瞳を持つ少女。
いつも無表情で無口でたまに見せる笑顔が可愛いそんな女の子。
だけど、彼女は無欲、無関心であって何かに関心を見せる所なんてあまり見た事がない。(数回しか会った事が無いから当然だけど。)
そんな彼女が今居る場所はゲームセンター。
それもUFOキャッチャーの前で食い入る様にその中の商品を見ているのだ。
中には黒い大きな猫のぬいぐるみ。
まさかとは思うけどあれが欲しいのか?
意外過ぎる彼女の姿が何だか微笑ましい位に可愛らしくて。
それにまた胸を高鳴らせながら俺は彼女に近付いた。

。あれが欲しいの?」
「!?・・・?ひぐちゆうや」

唐突に出てきた俺に驚きながらも相手が判るとほっとした様に息を吐く。
あ、名前覚えていてくれたのかと嬉しくなりながらUFOキャッチャーに小銭を入れた。
煩い位の音楽が鳴り響き、電子音が鳴る。

「この手前のでいい?」
「え・・・?・・・・」

再度目を見開いた彼女だったがどこか照れ臭そうに大きく首を縦に振った。
それを見て俺は「まかせとけ」と豪語すると目の前のゲームに集中した。
配置的には手前だし、手馴れている奴なら楽勝で取れる位置だ。
はたぶんこういうのが苦手なのだろう。
それを自分自身でも判っていて欲しいけれど挑戦出来ずにいたのだと思う。
俺は軽快に操作をしてボタンを押す。
そして、狙いを定めてボタンを離した。
じりじりと降り行くキャッチャーが見事にぬいぐるみを掴む。

「よしっ!落ちるなよ・・・」
「・・・・・」

そこから微妙なバランスを取り、見事に出口へと運ばれていった。
ごろんと落ちてきたぬいぐるみに視線が釘付けな
その瞳はきらきらと輝いている。(よく見て見れば無表情ながらも感情が読める。)
俺はそっとぬいぐるみを取ってやりに手渡した。

「ほら。欲しかったんだろ?」
「・・・ありがとう」

小さな本当にか細い声で少し頬を赤らめてぬいぐるみに顔を埋めるに嬉しくなり俺も笑顔を浮かべる。
嗚呼、ちくしょう。
本当に可愛過ぎる。
手に入れたぬいぐるみを抱きながら嬉々とした様子でこちらを見ると首を傾げる

「・・・どうしてここに?」
「え?ああ、今休憩中だからさ。たまには外の空気も吸わないとと思って」
「・・・ご飯まだ?」

唐突な申し出に今度は俺が首を傾げる。

「まあな。それがどうかしたか?」
「・・・お礼、したい」

礼儀正しいらしい彼女はどうしてもお礼がしたくて尋ねたらしい。
ここで断っても彼女はきっと頑なに礼をするまで動かないであろう。(よくは知らないけどそういう気がした。)
だけど、こんなの数百円のものだし礼をされる程の事でもない。
大体好きな女に奢られるのも男としてどうかと思う。
どうしたものだろうかと考えた結果。

「じゃあ、俺がご飯を奢るからさ。一緒に飯食いに行こうぜ」
「でも、お礼にならない」
「いいんだよ。俺にとっては礼になるからさ。ほら、行こうぜ」

有無を言わさず矢継ぎ早にそう告げて手を差し出す。
はどうしようか迷っている様子だったが控え目がちにゆっくりと手を伸ばし、俺の手に重ねた。
こんな風に触れ合うなんてよくよく考えたら初めてだし、今更羞恥心などが出てきたが後の祭りだ。
くそ、紅くなるなよ。俺の顔。
言い聞かせながら俺はその手を引いて歩き出した。
俺より一回り小さなその手は柔らかくて温かくて何だかとても幸せな気分をもたらしたのだった。
笛吹さんにこき使われてばっかりの仕事時間後の小さな偶然が生み出した幸せ。



彼女を知る楽しみ。
(お前、意外に食うんだな。)(・・・迷惑?)
(そんな事ないけどさ。何かそれも可愛いと思ってさ。)(・・・!?)