疲れた時でもそれを見ると思わず笑みが零れる。
どうしようもない愛おしさと幸せとか溢れ出すのだ。
男なんてそんな単純明快な生き物なのだと認識させられるが。
それがどうしたと開き直る位に嬉しいものなのだから仕方が無い。






電子艶書ディスプレイ







徹夜をする事が多いと言っても限度がある。
ずるずるずるずると気付けば三百三十六時間。
言い換えれば二週間程の期間この仕事部屋に軟禁の身である。

「ったく笛吹さん人使い荒過ぎ!」

あの人は限度と言うものを知らないのかと苛立ちながらキーボードを叩く。
だか、ふと手を止めておぞましい記憶を思い出し、限度など知る筈がないと思った。
寒気と冷や汗が全身を遅い、思わずげんなりとする。
頭を横に激しく振り、その記憶を振り払うと気を取り直してパソコンに向かった。
しかし、どうにも頭が回らず仮眠を取ろうかと考え始める思考。
すると、キーボードの隣に置いていた携帯が震えて着信を知らせる。
自分しかいないその部屋で急に鳴り響いたそれに驚き目を見張った。
時刻は深夜の一時を回っていて一体こんな時間に誰だろうかと首を捻り、携帯を手に取る。
ディスプレイを除けば一通のメール。
開いてみれば見慣れた名前。
一番愛おしくて大切な。
思わず笑いが込み上げてくるのを感じた。

だ」

名前を噛み締める様に呟いて文面をなぞる。
体調を案じる言葉が続き、その後、改行が長めに続いていた。
一体何なのだろうかと思ってスクロールしていけば一行に書かれてある想い。
朱に染まる頬を感じながら誰も居ないからと衒いもなく照れて笑う。

の奴・・・会いたくなるじゃん」

普段はそんな素振りなんて見せないのに。
文面からは彼女の気持ちが態度以上に溢れていた。
そう言われてみれば付き合い始めてから二週間も会わないのは初めてだったけと思い出す。
無表情、無感情の彼女がここまで愛らしく男心を擽る事を言ってくるとは・・・
そういう意味では少し笛吹さんに感謝した。
そして、上にぐっと伸びをすると頬を軽く叩いて画面に向き直る。

「嗚呼、ちくしょう。仕方ない。急いで終わらせるか」

頭のぼんやりとしていた感覚は吹き飛び、先ほどよりも早いスピードで仕事を仕上げていく。
ちなみにそんなパソコンのディスプレイの隣には開けっぱなしにされた携帯が光を放っていた。
その携帯のディスプレイは俺の作業を捗らせる起因になった一言がきっちりと記されていた。

『我が儘だけど寂しいから早く仕事終えて会いに来て欲しい。』

文明の機器に届いた艶書。
それは何よりも俺を奮い立たせる特効薬。
それ程までに君に夢中なのは言うまでもない事。


可愛い君の為ならば例え火の中、水の中。
(次の日、仕事を終えて朝一で会いに行けば彼女の嬉しそうな笑みを目撃した。)