情事を楽しんだ夜が開け、白い光が差し込む朝。
白いシーツの波の中、貴方の黒を見つめる喜び。
それを初めて味わったのに寝ていた振りだと知った私は。
甘い夜など忘れて貴方に背を向けて不機嫌な顔を浮かべるのだった。






オールデイカクテル







「ねえ、いつまでそうしてるの?」
「知らない」

私が不機嫌だろうが何だろうか顔色一つ変えないイルミ。
いつもならそれが普通だと気にも留めないのにこういう時はそれがやけに苛立って仕方ない。
普段気にも留めない些細な事ですら機嫌の悪い時には怒りのボルテージを上げるだけ。
頑なに口を閉じてそっぽを向く私に後ろで座り込み、同じ様にシーツを纏ったイルミが首を傾げる。

「困った。どうしたら機嫌を直してくれる?」

淡々とした物言いに胡散臭さが否めなくて遂にブチ切れた。

「知らないっ!!知らないっ!!知らないっ!!」

叫んで二つ並んでいた枕を力の限り投げ飛ばす。
それが暗殺者であるイルミに当たる筈もなく、虚しく壁に当たって落ちていく。
私はそれに更に腹を立てて完全に機嫌を損ねてシーツを頭から被り、引きこもる。

「ねえ、
「・・・」

返事なんて絶対に返してやらないんだと身動きせずにやり過ごしていると
ふいにベッドが軋み私のシーツが引っぺがされた。
ちなみに情事後の朝の喧嘩だ。
何も身に纏っている筈も無く、裸体を晒してしまう羽目になった。

「う、きゃああっ!?」
「漸く喋った。」
「喋った!?叫んだの!!」

辛うじて下半身は隠れていたので両胸を片手で隠して、もう片方の手でシーツを奪おうとする。
だが、それは巧みに避けられて逆にその手を引っ張られて抱き寄せられる。
鍛え抜かれたイルミの一糸纏わぬ胸に顔からダイブする。

「い、痛い・・・」
「ごめん。でも、こうでもしないと、こっちを向いてくれなさそうだったし」

そう言って、軽い音を立てて頬にキスを落される。
唐突の事に驚いて目を丸くしていると顔中にキスの雨を落すイルミ。

「ちょ、ん・・・イルミ・・・」

抗う様に声を上げてもイルミは一向に止めようとしない。
それに抗うように胸を押すが全くびくりともしない。
くすぐったい私は身を捩る。
すると、漸くイルミは止まり私の瞳をそっと覗き込む様に見つめた。

「許してよ。償いなら何でもするから」

猫が甘える様に頬を摺り寄せて呟くイルミに私は呆気に取られて、
ついには笑いすら込み上げて怒りなどまるで無かったかの様にイルミを温かな気持ちで見つめた。

「何か私がイルミを虐めてるみたいじゃない」

苦笑交じりにそう呟くと唇に自分の人差し指を当てて呟く。

「なら、ここにキスして」

そういえばイルミは微かに笑って口づけた。
それは唇と唇が重ねあうだけの甘いキス。
だけど、とても長く唇を合わせて吐息を感じあう。
そして、そっと唇を離すと互いに見つめあい微笑んだ。

「ねえ、もう一度して。今度はもっと深く」
「償いだからいいよ。でも、それ以上も許してくれるならしたいと思うんだけど」
「実は、私も。じゃあ、仲直りしましょうか?」

朝っぱらから酔っているのかという位の発言に互いに笑い合う。
だけど、何だかそういう気分なのだから仕方ないとさっきの喧嘩など無かった様に抱き合った。

「イルミは私にとってのオールデイカクテルね」
「?」

意味がよく判らないと前戯をしながら首を傾げるイルミ。
そんなイルミの顔を引き寄せ、キスを強請ると口付けを軽く交わし見詰め合った。

「だって、イルミとは喜びも悲しみも楽しみも怒りも味わい合うから。」
「そして、いつでも酔えるし?」
「そう。いつでも互いに酔い合える。こんな風にね?」

そう笑い合うとまた再び長いキスを交し合った。
甘く切ないキスを。


酸いも甘いも感じ合いましょう。
(じゃあ、お互いがお互いを酔わすオールデイカクテルって訳?)
(イルミもそう思ってくれているならそうなるでしょうね)