人の未来の一つを読み取って伝える。
それが私の仕事。
宿命だと思っていた。
けれど、貴方はそれだけが全てではないと教えてくれた。
そう、貴方は無慈悲な闇の暗殺者。
血塗られた貴方を見たのが初めての出逢い。
そして、私たちの縁の始まり。
交わる未来
「ぎゃあぁああっ!」
そんな断末魔と共に近づく足音。
決して怯える事なく白銀の少女は足音が近づく扉へと目をやった。
音もなく静かに開いた扉から現れたのは血化粧を施した黒い髪の男。
少女は堕ちた天使のように美しいその容貌を見て思わず目を見開いた。
殺しなどするものは醜い姿をしているものだという考えが少女の中にあったからかもしれない。
「誰です?貴方は」
少女は無表情で尋ねた。
凛と恐れをなす事もないまま淡々と話す彼女は神々しい威厳さえ感じられる。
「へぇ・・・先見のって君?」
「確かに私の名前はと申します。
ああ・・・そうですか。貴方はあのゾルティック家の長兄ですか」
「わかるの?もしかして君の能力って未来を視るだけじゃないんだ?」
ビジョンブラッドの様な瞳が静かに伏せられた。
「ええ。私は過去視もできますゆえ」
「ふーん・・・まあ、いいや。とりあえず君に死んでもらいたいんだよね」
特に感情を向けることなく抹殺する対象として狙いを定めるイルミには息を吐く。
「そうですか。ここで殺されるならそれが私の宿命なのでしょう。
どうせ殺すなら痛みも感じる間を与えないほど一瞬で殺してくださいませ」
は白い十二単にも似た形をした着物を翻して椅子に座る。
今まさに自分が殺されようとしているのに
微動だとしないにイルミは少なからず興味を抱いた。
「(おもしろいな・・・殺すには惜しいんだけど仕事だし。)」
ゆっくりと近づいてくるイルミを見てはというとだたその美しさに見惚れていた。
今まで見た何よりも美しいと思うその男に彼女は魅入られていた。
何も関心を抱かず未来を見る事のみに命を燃やしていた彼女にとって初めて関心を抱いたもの。
皮肉にもそれは自身を殺しに来た男。
「(本当に運命とは皮肉ですね。それでもこの者になら殺されても構わないかもしれない。)」
そんな考えに至った彼女は穏やかな笑みを浮かべた。
それを見たイルミの動きが一瞬止まった。
丁度、今にも心臓部を射抜こうとした時だった。
そして、その一瞬の間に電子音が響く。
それはイルミから発せられていた。
一息ついてからイルミはその電子音が鳴っている機械を取り出した。
「もしもし、今仕事中なんだけど。ふーん・・・そう、なら連れて帰るよ」
「?」
目の前にいるは平然とターゲットの前で話し出す暗殺者に疑問を抱くばかりであった。
そうこうしているうちにイルミは話し終え私に向き直った。
「なんか君を殺すのなしになったみたい」
「え?」
「依頼人が死んだというか俺の家族が暗殺した。別件の依頼で。
で、あんた事前々から気に入っていたらしくて婚約者候補にしたいってさ」
あまりに唐突な事には口を開けて固まっていたが
なんとマイペースな暗殺一家だろうかと呆れた。
そんなを知ってか知らずかイルミは了承をとることもなく抱き上げた。
「きゃっ!」
「ああ、断ってから抱き上げるべきだったけ。まあ、いいか。
というわけだから俺の家に来てもらうよ。拒否権はもちろんないけど」
「そうでしょうね。構いませんよ。どうせここで殺される筈だったのですから」
苦笑めいて笑うの笑顔をじっと見つめるイルミ。
動かないイルミを不審に思い、首を傾げる。
「どうかされまして?」
「いや、別に。・・・うん、決めた。君は俺が貰おう」
「・・・・は?」
いきなり放たれた言葉にさすがに平然としていたも完全フリーズ。
だが、すぐさま彼はこういう人なのだと理解したは笑顔を浮かべた。
「そうですわね・・・それもよいかもしれませんね」
のその一言に一瞬イルミの顔が穏やかになった。
それをは見逃すことなく見つめていた。
「それじゃあ、帰ったら即報告しないと」
そういう彼の横顔を見て一瞬、は彼の未来を見たくなった。
けれど、はそれをせずに目を伏せた。
「(この方の未来にもし私がいなかったら私は・・・)」
未来を読む事が全てだと思っていた彼女の心をこの一瞬で変えてしまったイルミ。
本当は互いが互いの心に影響し合い、変えた。
彼らの未来を。
「イルミ・・・でよろしかったですわね?」
「そうだけど何?」
「これからよろしくお願いします」
「・・・俺もよろしく」
白い彼女の着物に掛かるイルミの黒い髪を月が煌めき輝かせていた。
そんな夜から数年後。
彼らは今も同じ未来を歩み続けているのだった。
それは先見をする者でも知らなかった未来の姿。
back