例えばその双黒が私の視界覆い、世界となったならば。
私はきっと自ら腕を開き、心の臓を貫かれる事を望んでしまうのであろう。
それが終焉だろうとも。
全てを奪う壮麗たる死神にこの命を供物とし、永遠の愛を得るのだ。
貴方でこの身を満たして死ぬならば私はきっと至福なのだから。







時に人は死を幸福と感ずる







今、私の目の前に一人の死神が立っている。
そう錯覚させるだけであって実際は人間なのだが。
しかも、私の記憶の中に色濃く残る人物。

「何してんの?イルミ」
「何もないでしょ?この殺気の渦の中、そういう事を問うのは君だけだよ」

それもそうであろう。
常人ならば恐怖の余り失神してしまうであろうその狂気と殺意が咲き乱れる中。
私はただ笑顔でそこに立っているのだから。

「あはっ。まあ、仕方ないんじゃない?普通じゃないし。
ところで殺しに来たの?私を。貴方がわざわざこんなとこまで」
「うん。まあね」

淡々と答えるイルミ。
旧知の仲であろうと仕事ならば平気で殺す。
それが彼だから察して私は驚くもなく彼を見つめ続けた。
特に逃げるわけでもなく、ただその場で笑顔を浮かべて。

「そうかぁ。じゃあさ。殺すなら綺麗に殺してね?
ちなみに武器使うのもなし。どうせ殺されるなら貴方のその綺麗な爪がいいわ」

今にもその命の灯火を消そうとしている相手に向かって
あまつさえ殺し方の注文をつける私は狂人であろう。
でも、別に死ぬ事は怖くない。
むしろ何が起こるのかどうか気になるし。
それに私はイルミを攻撃する気など微塵もなかった。
いくら武器を向けられ、今にも喉を掻っ切られそうになっていても。
イルミがそれを望むというなら彼のその手を取って自ら首を掻っ切るだろう。
愛とかそんな陳腐な台詞を言うつもりはない。
だけど、何よりも大切なものだという自覚だけはある。
だから、傷つける気など一向になかった。

らしいね。いいよ。その願い聞いたあげる」

その声共ににイルミの爪は鋭く伸びた。
そして、それは自分の胸元に添えられて。
今にも肉を裂き、私の心の臓を取り出す事ができそうだった。
けれど、彼は中々殺そうとしない。
それに私は多少なりに違和感を覚えた。
彼の意志には揺らぎなど見えない。
しかし、彼は一切行動を起こそうとはしないのだ。

「ねぇ?イルミ。なんで殺さないのさ」
「・・・わからない。殺そうとしている。けど、動かない」

何を言い出すのだろう。
彼らしくも無い。
何故、そんな、今更な事を言うの?
でも、私の意志は揺らぎはしないの。
貴方は私を殺す事を求めている。
それが貴方の本能。
何が貴方の体を止めているのかはわからない。
だけど、一度、それで貫いたのなら貴方はちゃんと殺してくれる。
だから、私は貴方の手を取り。
そして、そのまま私の傍に引き寄せた。
ゆっくりと肉の裂く音が辺りに甘美に響いて。
私の耳を犯し尽くす。

「ほら、後はその鼓動の元を取り出すだけだよ」
「なんで、はそこまで死にたがる?」
「死にたがってないよ。ただ、イルミが求めているから」

血がイルミの爪を伝い、滴り落ちる。
その音は時を刻むようにぽたりぽたりと。
ただ、鳴り響く。
胸元は血で染まり、紅き華を咲かせている。

「俺が求めてる?まあ、確かに仕事だしね」
「でしょ?さあ、殺しなよ」
「そうだね・・・じゃあ、またね」

その言葉に思わず私は笑ってしまう。
でも、私はそのままイルミに口付けてこういった。

「今度は地獄で楽しもうよ。イルミ。陳腐な台詞しか思いつかないけど・・・愛してるよ」

それを言い終えたと同時に私の心臓がイルミのその手で取り出された。
私は瞳の光を失くし、ただの人形のようにその場に崩れた。
それを受け止めてイルミは抱き上げた。

「俺も愛してるよ。

イルミはただ、その亡骸を愛しむ様に抱きしめる。
そして、その亡骸を大切に抱き、その場を後にした。
その場に残されたのは紅き波紋。
腕で眠るようにして死んだの表情は至福に満ちた表情であった。




いつか地獄にて貴方との再会を。
愛する君よ。
迎えに行くからその時までは私を記憶に深く刻み付けたまま生き抜いて。