今日はバレンタイン。
グランコクマの城の中でさえ、バレンタインで盛り上がっている。
レプリカの私だって女の子だ。
私にだって好きな人がいる。
チョコだって渡したい。
けど、私はレプリカだから・・・






不器用な彼らに幸あれ!







「ハァ・・・」

今日幾度目の溜息だろうか・・・
本当に憂鬱である。
今日はバレンタイン。
チョコも手作りで作った。
でも、たぶんこのチョコがあの人の手に渡る事はないだろう。

「レプリカじゃなかったらなぁ・・・」

そう、私はレプリカなのだ。
作られた存在。
それは私の行動を縛る鎖となっていた。
皆はそんな事気にしなくてもいいって言う人もいる。
それでも私はレプリカという事に負い目を感じている。
私の好きな人が私のオリジナルだから尚更に。

「なんであの人を好きになったんだろう・・・」

普通のレプリカならもしかしたら多少は変わっていたのかもしれない。
だけど、私は普通のレプリカとは違う。
オリジナルに全く似ていないのだ。
フォンスロットが一緒と言う以外どこもかしこも似ていない。
性別も外見も外見年齢も性格もぜんぜん似ていない。
私のオリジナルはジェイド・カーティスと言う。
なんで好きになったかなんてわかんないけど私は彼が好きである。
でも、周りから見たら兄妹にしか見えないんだよね。
私の外見年齢は17歳ぐらいだから。

「はぁ・・・・」

また、溜息。
その瞬間、急に後ろから肩を叩かれた。


「きゃあっ!!ピ、ピオニー陛下!?」
「そんなところで何やってんだ?」

そう、後ろに居たのはピオニー陛下だったのだ。
陛下は両手に大量の袋を持っており、その中には沢山のバレンタインチョコ。
流石、恋多き御方だ。

「ピオニー陛下・・・さすがモテますね・・・」
「おうっ!ところではくれないのか?」
「・・・わかってますよ。はい、これはピオニー陛下の分です」

そう言って出したのは淡いブルーの箱に入ったトリュフだ。

「さすがイイセンスしてるなぁ」
「お褒めに預かり光栄です」

そう返すと「そういえば・・・」と陛下が言葉を口にした。

「ジェイドにあげないのか?本命チョコ」
「ブッ!!な、何をいってるんですか!?」

見破られてる・・・・さすが陛下。
そう思わずにはいられなかった。

「隠さなくてもいいだろう〜さっさとあげてやれよ。ジェイドの奴が機嫌悪くなる前になっ!」
「それぐらいでカーティス大佐の機嫌が悪くなるとは思えないのですが?」
「・・・ここまで鈍いとジェイドも可哀想だな」
「は?」
「いーや。こっちの話。それよりいい加減ジェイドって呼んでやれよ」
「ですが・・・私はレプリカですし・・・」

そう、私が言うと急に背後から声がした。

「また貴女はそんな事言ってるんですか?
「カッ!カーティス大佐!!」

噂の人物登場。
落ち着け、落ち着け!!
私はそう自分を必死で言い聞かせる。

「よぉ!ジェイド」
「なんですか?陛下。気色悪い笑みを浮かべて。ディストと同じくらい気持ち悪いですよ?」

すごくいい笑顔でジェイドは毒づいた。

「なんとでもいえ!ったく俺のジェイドの方がもっと可愛げがあるぞ」
「そんな気色悪い事を言わないでください」

心底嫌そうなジェイド。

「ところで何していたんですか?二人で」

するとピオニー陛下は実におもしろ・・・ゴホッ!!素晴らしい笑みを浮かべた。

「いやな〜からバレンタインのチョコをもらったんだ」
「それはそれは。よかったですねぇ・・・」

そういってふと眼鏡を上げたジェイドの表情は少し曇っていた。
私は気のせいかと思ったのだが・・・
そんな事を思っていると急に陛下が私を背後から抱きしめた。

「なっ!?陛下!?」
「へへーん。いいだろ?羨ましいだろう?」
「ちょっ!!陛下!」

私は抱きつかれた事に抗議するように言ったが全く陛下は動じなかった。
すると急に前方に強く引っ張られた。
そして、そのまま何かにポスッという音を立てて当たった。
そうこうしている内に私はジェイドの腕の中に居たのだ。

「!?!?!?」
「陛下。が嫌がってるじゃないですか」

「そんな事ないだろうが。どうでもいいがお前いい加減に素直になったらどうだ?
っていうか二人ともか。そういう変なとこだけはお互いにそっくりなんだからなぁ・・・」

陛下は意味深な発言をした後、「じゃあな」といってその場を去った。
私はようやく解放されると思い、しばらくじっとしているがジェイドは一向に離してくれる気配がない。

「あの・・・大佐?そろそろはなしていただげ・・・」

ませんか?と続けようとした途端、ジェイドが口を開いた。

「私の事はジェイドと呼びなさいと一体いくら言わせたら気が済むんですか?」
「で、ですが・・・・」
「呼ぶまでは離しませんからね」
「なっ!?」

そういうと本当にジェイドは離す気がないようでぴくりとも動かない。
しばらく悩むが現状を打開するには名前を呼ぶ以外なかった。

「・・・ジェイド・・・」
「なんですか?聞こえませんよ?」
「〜〜〜!!ジェイド!!!」

私が顔を赤くしながらやけになって言うと満足そうな笑みをジェイドは浮かべた。

「なんですか?」
「なんですかって・・・言わせたのはジェイドじゃないですか!?」
「そうですよ。ですがまだ一つ解決してない事がありますよ?」
「・・・・?」

訳が判らないと首を捻るとジェイドは溜息を吐き、こう言った。

「陛下にはあげて私にはないんですか?」
「・・・・もしかして・・・チョコ?」
「そうです」

私は思わずドキリとした。
そんな事を言われると期待してしまうではないか。
自分の事をジェイドが好いてくれていると。
私はそんな勘違いを振り切るように頭を左右に振った。
そして、用意しておいたジェイド用のチョコを渡した。

「その・・・大したものじゃないですが・・・・」
「手作りですか?」

と、問いかけられた私はこくりと首を縦に振った。

「私の為に作ってくれたんですよね?」
「そ、そうですけど・・・?」
「そうですか・・・それはありがとうございます」

私は思わず固まった。
あのジェイドがお礼を言ったのだ。
前代未聞、天変地異の前触れかと思った。
そんな失礼な事を思いながら固まっているとジェイドの顔がふいに近くなった。
すると唇に柔らかな感触があった。

「!?」
「おや、。キスをする時に目を開けるのはどうかと思いますよ?」
「なっ!?なっ!?」
「嬉しかったですよ。チョコ。それでは。これからまた仕事なので失礼」

そういうとジェイドは去っていってしまった。
私は思わずその場に座り込んだ。

「今の・・・・なに?」

本当に期待してしまう・・・
それともその期待を信じてもいいのだろうかと。
その頃のジェイドはというと・・・

「全く・・・私もまだまだ青いですねぇ・・・」

と別れた後、ジェイドは一人ごちにそういった。
赤く火照った顔を隠すかのように片手で口元を覆いながら。