貴方は全て自分で背負い込む。
だから深く傷つきながら自分を責める。
ねぇ?そんな事もうやめて。
貴方の痛みを私も背負うから。






Pain







「ジェイド」

雪が深々と降り積もる街・ケテルブルク。
彼の始まりの街であり、彼の過去の眠る街。
そんな中、平然を装う貴方を見て私はついに我慢できなくなった。
いつも見ていた。
だから、今起きている貴方の些細な変化もわかったの。

「なんですか?

平然として普段どおり考えの読めない笑みを浮かべる
ジェイドに私は包み隠さずそのままを語った。

「どうしてそんな風に一人で抱え込むの?」
「・・・さぁ?何の事でしょう?」

両手を方の高さに上げてわかりませんねぇといったジェスチャーをする彼。

「誤魔化さないで」

そんな彼に私は鋭い言葉を投げ掛ける。
私はそんな言葉で誤魔化されはしないよ。
そう、瞳にメッセージを込めてジェイドを見つめる。
すると彼は観念したように溜息を吐いた。

「全く・・・貴方は変なところ勘がいいんですから」
「変なところって・・・失礼ね」
「気分を害したならすみません。これでも褒めてるつもりなんですよ」

茶化すように笑う彼に追求を深める。

「本当に貴方って不器用ね。何故そんな風に一人で抱え込もうとするの?」
「同じ事を貴方は聞きますね。・・・まあ、全てお見通しというわけですか」
「そういう事」

漸く観念したのかジェイドはいつもの愛想笑いを浮かべずに少し苦笑した表情を浮かべた。

「雪が・・・真っ白じゃないですか」
「そうね」
「あの白が思い出させるんですよ。あの紅を。私の罪を露見させる。
気のせいだという事は判っているんです。でも、罪悪感から逃げる事は決してできない」

私は何を言うでもなく彼を見つめ彼の言葉に聞き入った。

「ずっと永遠に負い目を感じて生きていかなければいけない。
それを実感させられるからここに戻ってくるのは気が進まなかったんです」

それは悲痛な心の叫びのように聞こえた。
私はそんな彼の真正面に立つ。
すると彼は不思議そうな顔をした。
そんな彼の額に私は指を伸ばし、その額を指で弾く。
バチンと気持ちの良い位のいい音が鳴った。

「いきなり人の額に何デコピンなんかしてるんですか」
「馬鹿な人へのお仕置きです」
「馬鹿・・・ですか」

額を手で擦りながらジェイドが呟いた。
私はそんな彼を気にすることなく話を続ける。

「そうです。何で一人で抱え込もうとするの?
仮にも私は貴方の隣をこれからずっと死ぬまで歩き続けると決めているのよ?
それなのに貴方は殻に閉じこもったまんま。私にも少しは背負わせて頂戴。
私が貴方の隣に居る事を決めたのだから貴方の辛い過去や罪も受け止める覚悟なのよ?」
・・・」
「それなのに貴方は頼ろうとも語ろうともしなかったでしょう?私が聞くまで」
「そうですね・・・」
「これからはもっと頼ってよ。私も一緒に背負ってあげるから」

それを言い切った後、私の視界は真っ暗になった。
そう、答えは簡単。
目の前にいるジェイドの胸に私はいたから。

「ジェイド」
「すみません。柄にもない表情を今しているのでこのままで居てくれませんか?」
「・・・・わかった」

彼の柄にもない表情。
それは流れてくる雫ですぐにわかった。
だから、私はそのまま抱きしめられたままで居る事にした。
滅多に泣かない彼の涙はどこまでも苦しげで辛そうで私すら苦しかった。
数分たって彼が何事もなかったように口を開いた。


「何?」
「これからも私の隣で私を支えていてくれますか?」
「当たり前でしょう」

肯定の返事を返すと彼がゆっくりと体を離した。
そして、とても穏やかな表情で彼はこういった。

「ありがとうございます。

それは彼の感謝の言葉。
彼を完全に解放してあげる事はできないのかもしれない。
でも、貴方の背負っている痛みや罪や過去を半分ぐらいは背負えているといいなと私は思った。



(愛しているから全てが愛しいんです。それが罪でも過去でも。)
(そんな貴女の事を私は心から感謝し、愛しいと感じるんです。)