とてもとても綺麗な貴方。
とてもとても強い貴方。
それは誰でも知っている貴方の姿。
でもね。
私の知っている貴方はとてもとても可愛いの。






まるで白兎のような人







「なんだかんだ言ってなんで私と同室になっているのかなぁ?」

意地悪く私がそう告げてみれば彼はさもなんともないといった顔を向ける。
私にそんな事したって無駄なのに。

「私も不本意ですよー」
「とかなんとか言っちゃって本当は一緒がよかったくせに」
「さあ?どうでしょうか?」

確実に核心を突いた言葉だったのに彼は笑って誤魔化す。
もちろん納得なんてしないけれどあんまり弄ると後が怖いのでやめておいた。
それからしばらくゴロゴロとベッドの上を転がっていたのだけれど。
飽きてしまいベッドサイドに腰を掛けて本を読んでいるジェイドの元へと向かった。
ちょこんと彼の後方から肩に顔を乗せて覗き込む。
読んでいる内容は難しくてあまりわからない。

「ジェイドって好きだねー本」

パラっと本の捲る音が響く中、ぽつりとそう呟く。
ジャイドは本から視線を逸らさず返事を返してきた。

「普通だと思いますけど?」
「私は本ってあんまり読まないから。実際に体験した事の方がちゃんと知識として身につくし」
「まあ、確かにそうですけど予備知識は大事ですよ」
「それでも嫌」

肩から顔を下ろして彼の後ろにちょこんと座る。
そして、今度はいじいじと彼の長い髪を編み始めた。
男の癖に艶やかなその色素の薄い髪は触っているだけで心地よい気持ちになる。
正直、羨ましい。

ー楽しいですか?」
「まあまあ楽しい」

黙々と編み続ける私にジェイドは不満げに尋ねてきた。
しかし、一人暇を決め込む気はないのでとりあえずスルーする事に決定。

「でも、私は楽しくありません。どうせなら前方から弄ってください」

だけど、ジェイドも譲る気はないらしく注文をつけてきた。

「んーやだ。ジェイドのことだからエロに発展する」

苦い体験を思い出して先手を打つ。
すると、嘘くさい声が響いてきた。

「心外ですねー私は紳士ですよ?そんな事するはずないじゃないですかー」
「嘘だ!白々しい。この間もそんな事言っていつの間にか組敷かれてたもん!そんな奴が紳士なんて紳士に失礼」

ありえない言葉に思いっきりツッコミを入れる。
そりゃあもう逃げ道なんて用意させない勢いで。

「酷いですねぇ」

大して傷ついてもいないくせにそんなことを言うジェイド。
そして、編む手を止めて編んでいた髪に指を差込み思いっきり下に引いた。
すると、大してひっかりもなく髪はするするとほどけていく。
全然痛んでないのがそれでわかってちょっとムカついて髪を思いっきり引っ張ってやった。
思わず声を漏らしたジェイドだったがこの際無視だ。

「自業自得。あ、でもエロなしでジェイドが甘えてくれるのは本当言うと好き」

自業自得と釘を刺しつつも思わずへらっと笑って好きなんて言ってしまった。
しかし、いきなりのことで驚いているのか無言が辺りを包む。
すると私の方を向いたジェイドが本当に驚いたと言わんばかりの表情を浮かべていた。

「・・・それは初耳ですね。というか私甘えてますか?」
「うん。ときどき。あれ無意識なんだ」

初めて知った事実に驚き目を丸くする。
すると、眼鏡を上げる仕草を見せるジェイド。
たぶんこれは照れ隠しなのだろう。

「ええ。全く気付きませんでした」
「ふーん・・・でも、それはそれでいいかも。
無意識に甘えてくれるほど私はジェイドに信頼されて愛されてるんだなぁって思えたから」

へらへらっと笑って告げればジェイドは無言で私の膝の上に顔を私の腹に向けて寝転ぶ。

「うひゃ!急に何さ」

彼の髪がさらけ出された私の足の上をくすぐる。
それに身をよじっていると彼がそっと腰に手を回した。

「いえ、甘えてくれるのがいいと言われたので要望を答えようかと」

にっこりとそんな音がしそうな笑みを浮かべたジェイド。
それに私が笑って腰に回る手を抓る。

「いらんわ。なんか手つきがエロイ。何もしないんだったらこのままでもいいけど」
「じゃあ、何もしません」

ジェイドが珍しく言葉通りに手を下ろしてそのまま瞳を閉じた。
それに驚いて私は彼をマジマジと見つめる。

「うは!珍しい。でも、可愛いから許す」
「可愛い・・・ですか?」

予想していなかったのだろう。
自分にそんな意外な言葉が飛んでくる事を。

だけど、私はそう思ったからそう答えた。
だって、可愛いって・・・

「あれ?可愛いって変?だって可愛いってさ。女の子だけに言う台詞じゃないと思うし」
「というと?」
「可愛いって愛する事が出来るって言う意味でしょ?
愛しているってことと似てると思わない?だから、私的に男に言うのもありなの」

そう思うから私はジェイドに使ったんだ。
それを伝え切れたのか彼は納得したかのように頷いた。
そして、真上を向くように寝なおして私の顔をマジマジと見ると。
私の頬をそっと撫でた。

「ならば私にとってはとても可愛いということになりますね」

いつもの笑みと違い優しく微笑まれるとそう告げられた。
それに私は目を大きく開くとジェイドを凝視した。
そして、しばらくして段々と顔が赤くなっていく。

「ハズ!!でも、ありがとう。私も兎みたいなジェイドが可愛くて仕方ないからね」
「なんだか喜んでいいのか若干首を傾げる言い方ですね。でも、ありがとうございます」
「35歳にもなって可愛いはきつかったか。しかも、兎だしね!あはは!」

二人でそんな言い合いをしているといつの間にかふとジェイドが静かになった。
どうやら眠ってしまったらしい。
そんなジェイドを見つめ頬をそっと撫ぜた。
まるでまるで兎のように身を丸めて眠る姿。
本当に愛おしくて愛おしくて。
それだけが心を満たしていく。
愛おしくて愛おしくて貴方を見ているだけで私は幸せに満ちていく。
そう、確かにその時感じたのだった。