ただ、彼女の笑顔をもう一度見たい。
そう、願って止まなかった。






初めて涙を流した夜







預言に囚われない異世界から来た少女。
この世界に預言のない未来を説いていった聖女のような女性だった。
戦いなど無縁だった生活からいきなり戦う事を余儀なくされたのにも関わらず。
戦いへ向かう彼女の姿は誰よりも力強く気高かった。
いつか彼女に聞いた事があった。
何故、無関係の貴女がそこまで命を掛けてまで戦えるのだと。
そしたら彼女は笑顔でこう答えた。

「自分がそうしたいからそうするだけ」

たったそれだけを言って彼女はまた前へ向かった。
決して迷いのないその瞳は美しく気高かった。
そして、私はいつの間にかそんな彼女に惹かれた。
どうしようもなく恋焦がれた。
いつしか自分の世界に帰ってしまうのだとしても。
今もそれは変わらない。
自分の世界へ帰ってしまった彼女を想う気持ちは。
むしろ、日々募るばかりだ。

・・・」

貴女に会いたくて仕方がない。
叶わないとしても。
どうしてこうも私と貴女を遮る壁が厚いのか。
そんな途方もない悩みが尽きない。
名を呼べばまたいつもみたいに笑って自分の名を呼び返してくれるのではないか。
そんな淡い期待を抱きながら過ごす日々。
できるものならば貴女の記憶を消してしまえればと思う。
そうすれば苦しむ事などないのに。

・・・」

幾度も貴女の名前を呼ぶ。
返ってくる声がなくても。

「呼んだ?ジェイド?」

その時、だった。
聞こえた懐かしい声。
優しく暖かなその声。
求めて止まないありえる筈のない。
けれど・・・
そう思い、高鳴る鼓動を抱きながら私はゆっくりと振り返った。
そこには月光に照らされて笑う紛れもない彼女の姿があった。
私は一瞬ついに幻まで見るようになってしまったのかと思った。
しかし、笑って歩み寄ってきた彼女が私に触れた。

「ははっ。また来ちゃった」

その柔らかな手の感触を感じ、響いた声。
恐る恐るその手に触れた。
暖かな温もりがある。
紛れもない現実だった。
私は無我夢中で彼女を引き寄せると強く抱き締めた。

・・・・っ!」
「ただいま。ジェイド」

答えるように背に回る手。
嗚呼、求めて止まなかった存在がここにあるという幸福。
私は歓喜に震えた。
涙を零し、貴女の名を呼び続けた。
初めて、涙を流した夜だった。




もう、二度と離す事はない。
(貴女と再び別れることがあるならば、それは。)
(死が二人を別つ時だろう・・・)