黄金よりも鮮やかに煌き輝く金色の御髪、澄んだ青の瞳で無邪気に微笑む我が君(マイン・ヘル)と呼ばれる薔薇十字騎士団(ローゼンクロイツ・オルデン)の首領。

、おいで。着替えさせてあげる」
「カイン」

名を呼ぶ事を許された私は薔薇十字騎士団(ローゼンクロイツ・オルデン)では位階はなく、救世主(メシア)と呼ばれる異界来訪者。
また、我が君の人形、愛玩具として見られている。
しかし、本当はカインの慈悲の剣(ミセリコルデ)なのだ。






エテルニテ・ノワール・フラム







漆黒の闇の様なドレスを身に纏わされて、今は髪を手入れされている。
優しく優しく梳かれていく髪は艶やかに輝き、背へと零れ落ちていく。

は本当に綺麗だね。そして、よく黒が似合う。でも、赤も似合うね」

そう言って私の頭に紅い薔薇の髪飾りをつけて微笑むカイン。
鏡越しに見る楽しげな笑顔は世界の敵(コントラ・ムンディ)と言われている面影はない。

「カインには白が似合うわ」
「そう?そう言って貰えるなら白を身に纏っていてよかった」

本当に嬉しげに微笑んで、目を細める姿を愛おしいとただ想う。
彼が世界の敵だろうと何だろうと傍に最後まで居ようと心の奥底から願い思ったのは彼がこういう人だから。
無邪気で純粋でそれ故に残酷な事も多いけれど、優しく愛する事も確かに知っている人なのだ。

「そう言えば最近、僕はこの部屋に居る事が多いとイザークに言われたよ」
「気にしていなかったけれど彼がそう言うならそうなのね」
「うん。たぶんね。でも、仕方が無いよね。の色で染まったこの部屋は凄く居心地が良いんだもの」

黒と銀で統一されたこの部屋は彼が私の為に用意したもの。
黒は私の髪の色で銀は私の瞳の色だそうだ。
そこに時折飾られている赤も私に似合う色だからという理由らしい。

「私も好きよ。カインが用意してくれた部屋だもの。本当はカインが居てくれるなら何処でもいいのだけれど」
「ふふ。ありがとう。。僕もだよ」

櫛を置いて私を後ろからぎゅっと抱きかかえるカインの確かな温もりを感じてそっと瞳を閉じる。
彼も同じく瞳を閉じているのだろうかと瞼の裏でその光景を想像する。
すると、カインにしては珍しい小さな声が頭上から降って来る。

は僕のものだよ」
「ええ」
「この髪も、瞳も、肌も、声も。全部、全て僕のもの」
「貴方が望み続ける限りずっと私は貴方のものよ」

不安だと言わんばかりの声に彼の求める回答を返して、身体を捻って振り返る。
彼の髪を絡ませながら彼の頬を両手で挟んだ。
私より白いんじゃないかと思う彼の肌は冷たくて何だかとても切なくなる。
それを払拭するようにそのまま彼の額に自分の額を重ねる。
吐息が交じり合い、互いの呼吸が聴覚を刺激する。

「カイン。私は貴方の最後を見届けるまでずっと傍に居るわ。どんな結末であろうとも私は貴方の傍に」
「うん」
「カイン。貴方には私が居る。ずっと、最後まで。貴方の白を汚すのは紅の似合う私だけ」

出会って暫くしてカインが願ったのだ。
カインの全てを終わらせるのは私でなければいけないと。
それをどんな気持ちで願ったのかまでは知らないけれど、私は確かに頷いた。
彼の願いを叶えたかった。
どんな事でも叶えたかった。
この世界に堕ちてきた私は何もないこの世界でたった独りの存在。
何も掴めるものなど無いと思っていた私の両手。
でも、今こうやって彼を捉えていられる手。
それは、カインが私にくれたもの、叶えてくれたもの。
だから、私も私の手で彼の願いを叶えてあげたいと思ったのだ。

「キスしてもいいのかな?」
「ええ、貴方が望むなら」

無邪気な笑顔をまた取り戻したカインはそっと触れるだけの口付けを落とす。
切なく甘い痛みが私の心を貫いてまた愛おしいと想ってしまう。
愛した貴方をこの手で殺せという貴方を残酷だと思うけれど、それ以上に愛おしいから私は彼の願いを叶えると確信する。
そんな想いを込めて唇が離れると同時に瞳を開けて、強く見つめた。
すると、彼はそれを理解した様に再び口付けを落とした。
今度は熱い炎の様な口付けを。



白き翼を燃やすのは永久の黒炎。
(貴方を愛した事を誉れと思えど後悔はない。)