俺は教師、お前は生徒。
それを了承し、覚悟したの上で俺達は今の関係を続けている。
けど、俺は考えた事などなかったんだ。
あいつがどれほど辛い思いをしているか。
そして、俺はあいつを傷つけた。






君が為に








「先生ー構って下さいよー」
「あー・・・後でな」

最近、二人っきりになると繰り返される会話。

やたら甘えてくるに微かな違和感を覚えていたが俺は気のせいだと思い、それ程気にも留めていなかった。
いつもこんなやり取りをしているしという妙な安心感のせいもあった。
けど、その日はいつもと違った。

「先生!!」
「な、なんだよ!?いきなり大声出して・・・・」

ようやく振り返った俺が見たのは肩を震わせて俯いている彼女の姿だった。

・・・?」

心配して俺はゆっくりと近付きの肩に手を置いて顔を覗き込む。
するとバシッ!!と渇いた音を響かせながら手が振り落とされた。

「おまっ・・・!どうしたんだよ!?」
「・・・らぃ・・・」
「え・・・?」

小さくが呟いた言葉が聞こえなくて俺が聞き返すとがバッ!と顔を上げて叫んだ。

「嫌い・・・嫌い嫌い嫌い!!先生なんて大嫌い!!」
「な・・・いきなりなんなんだよ。お前さんは・・・」

いきなりの事に俺は少なからず動揺した。
彼女がここまで気持ちを露わにするのは久々に見た。
涙を流し、目を紅くして俺を睨み付ける彼女の表情は怒りに満ちている。
だが、その怒りの中に微かに悲しみが隠れているのを俺は感じ取っていた。

「なんで構ってくれないんですか?言葉を貰えないならせめて態度で安心したかった!
わかってても不安なんですよ!!なのに、いっつも先生はそうやって軽くあしらって・・・」
・・・」
「一方通行みたいな恋なんていらないっ!!」

そう言うとは扉を勢いよく開けて走り出した。
俺は急いで彼女の後を追う。

「おいっ!!待てって!!」

やはりその辺は男女の体力差というもので俺はすぐにに追いつく事が出来た。

「・・・っ!!離してっ!!!」
「断る」

必死に手を振りほどこうとしているの腕を引き、を自分の腕に閉じ込める。

「なっ!?先生!!何してるんですか!!ここ、廊下・・・」
「そんな事はわかってる。
でもな、俺はここで誰かに見つかるよりもお前を失くす事の方が怖いんだよ・・・」

それを聞いたは目を見開いて俺の目を捉える。
今のは俺の心からの本心だ。
その言葉を聞いて大人しくなったを見て言葉を続ける。

「正直言うとさっき嫌いだって言われた時、かなりショックだった。
それと同時に泣かせちまったことを激しく後悔した。お前だって人間なんだ。
不安にだってなる。それを俺はわかってやろうとしてなかった。・・・・悪かった」
「先生・・・」

俺は今の情けない顔を見られたくないが為にの顔を自分の胸に押し付ける。
そして、ゆっくりと頭を撫でてやる。
指の間を流れる髪がとても艶やかだった。

「言葉にしちゃいけない。それは言葉にしちまったら
お前さんを縛ってしまいそうだからそう言ったんだ。お前さんはまだ若い。
俺よりももしかするといい奴が見つかるかもしれない。そう思うとどうにも言う事ができなかった」
「私は・・・先生以外の人なんて・・・!!」

必死な声でそう訴えかけようとしたの言葉を遮り、こう言った。

「まあ、最後まで聞け。もう、俺は遠慮をするつもりはない。
例え、立場があったとしてもお前さんを悲しませるぐらいならそんなもん誰にだってくれてやる。
俺には・・・・お前さんしかいないんだよ。こんな年になって運命だとか口にする気はない。けどな・・・」

俺はいったん言葉を切って彼女を抱く腕の力を強め、耳元に唇を寄せる。
ぴくりとの肩が動く。
きっと彼女の顔は今真っ赤に染まっているのだろう。

「けど、俺はお前が・・・が好きだ。だからもう泣くな」
「・・・・っ!!先生ぃ・・・!!」
「泣くなっていってんのに・・・お前さんは・・・」
「だって・・・!!先生がそんな嬉しい事言うからっ・・・!!」

俺は苦笑しつつ、彼女を抱きしめ続けた。
こんなに愛おしい彼女の苦しみを何故俺はもっと早く理解してやれなかったのだろうか?
そんな後悔は過ぎるけれど・・・
これからは彼女にどんな愛の言葉も囁こう。
彼女がそれを望むなら。
・・・柄じゃあないがな。