「お前ら・・・人の部屋を居酒屋かなんかと勘違いしてないか?」

酔っ払った四人の男を前にぼそりと呆れと少々の怒りを含ませながら告げた。






凛と咲き誇る華







「おぉー!ー!おんしも飲めー!」
「辰馬、喧しい」

は部屋に入って早々に絡んできた辰馬を足蹴にしつつ、歩みを進め空いているスペースに座る。
そして、とりあえず現状把握。
余す事なく転がる酒瓶の数。
要するに相当の酔っ払いが四人。
銀時と辰馬は既にベロンベロンな態度でハイになって奇怪な行動をしている。
晋助も済ました顔をしているが微かに紅くなっているのを見る限り実は相当酔っている。
ああなった場合は関わらぬが一番の得策。
話しかければ押し倒すは迫るはで厄介。
勝手に寝るのを待ったほうがいい。
で、最後に小太郎。
なんというか既に寝かかっている。
寝ながら酒を飲んでいる感じだ。
性格は融通の利かぬ阿保だがこういうところは器用。
・・・・やっぱ阿保か。
以上で分析を終えるとはとりあえず縁側で飲むかとそそくさと移動する。
手には酒瓶を持って。
障子を開ければ雪が振っていた。

「寒いわけだ」

ひらひらと舞う雪を見て呟く。
そして、酒をちびちびと手酌で飲み始める。
後ろが騒がしいが気にする事はない。
何やら晋助に絡んだ銀時が押し倒されてたり、それに辰馬が便乗したりしているが気にしない。
着物を脱ぐ音が聞こえたりするが絶対に気にしない。
ってか人の部屋で脱ぐな。
脱がすな。
濡れ場を始めるな。
っつーか酔って女と間違える晋助もなんだかんだ言って馬鹿だ。

「まともな奴はおらんのか」
「私はまともだ」
「うおっ!?」

急にぬっと顔を出してきた小太郎には思わず驚き身体をびくつかせた。
まだ酔っているらしい小太郎がの膝に頭を乗せながら真顔で訴えてくる。
は驚きも程ほどに呆れながら頭を撫でてやる。

「おーおーそうだな。小太郎はまともだな。だから素直に寝てろ。自分の部屋で」
「自分の部屋の方が寝れるだろうな。だが、断る!!」
「何故に!?」
の膝がいいのだ」

いきなり何かセクハラめいた言葉を呟いた気がしたが酔っ払いの戯言。
まじめに取り合う方が阿保だと思うや否や酒瓶を置いてあやす様に頭を撫でてやる。

「そうか。なら私の膝の上でもいいから寝とけ」
。お前は優しいな」
「年上だからねぇ。あんた達なんて皆図体のデカイ弟みたいなもんさ」
「弟、か・・・」

少し寂しげに呟くその声に疑問を思って問いかけようと思っただったが
直ぐ様小太郎が寝息を立て始めたのでその言葉は出ずに終わった。




「何を人の膝の上に頭を乗せてる」
「いいではないか。昔もしていた」
「・・・・お前は餓鬼か」

攘夷戦争も昔の事になった今。
攘夷志士ではなくなったのに今だ攘夷を目指している男と酒を交わしている。
傍から見れば桂の女だとか言われているのだろうなぁっとぼんやり考える。
が、まあ微妙な関係なのは確かなのでそこらへんはいいかと流す。

「というか小太郎。私は三十代後半のいい歳した女だぞ?そんな女の膝に乗って何が楽しい?」

はそう言って銀色の髪を後ろへと払う。
灰色の瞳を細めながら怪訝そうな表情を浮かべているが彼女の美貌は正直、二十代前半でも十分通る。

は今も綺麗だ」
「・・・・褒めても何も出んぞ」
「事実を言っているだけだ」

きっぱりとそう告げる小太郎。
その姿をしばし見つめた後、は視線を逸らした。

「お前は、まだ私を好いているなどと言うのか?」
「当たり前だ。撤回するつもりもない」
「・・・・私は、忘れぬぞ。あの人を」
「判っている」

の表情は辛そうに歪められていてその頬を小太郎はそっと撫でる。

「俺は、例えの心に先生が居ても構わない」
「私は、そんな事はできない。けど、もう少し、もう少しだけ時が経てば変わるかもしれない」
「・・・それでいい。俺はいつまでも待つ。
もう十年以上待っているんだ。今更何年、何十年待とうが変わらない」

理解していた。
は松陽を想う一方で今を生きる小太郎に惹かれていっている事を。
それでも、最愛だった彼を失った傷が癒えずまだ踏ん切りがつけれずにいた。

「小太郎。お前は変わらぬな」
も変わらぬ。美しいままだ。身も心も」
「・・・そんな事はない。血に染まってるよ。私は人斬りだったんだから」

小太郎はそっと想った。
先生の遺言がなければ彼女はきっと高杉と同じように過激派の攘夷志士と化していただろう。
彼女を戒める言葉。
決して人を恨んではならぬという先生の言葉。
それがなければ彼女は鬼神と化していた。
それほどの剣の腕を持っていたから。
彼女は愛する人の最後の言葉を今でも守っている。
きっとこれからも守っていくだろう。
彼女にとって生涯一番愛した人は先生だけだろうから。
だから、俺は二番目になりたいと願うのだ。

。俺はお前を想う気持ちに偽りはない。綺麗だと想うし、愛おしい。
誰よりも優しいお前が。一番になろうとは思わない。ただ、二番目になりたい」
「そんな不誠実な事は・・・」
「気にしない」
「・・・小太郎。お前こそ綺麗だ。私はそう思うよ」

彼女はそう笑って俺の身体を抱きしめた。
頬に当たる銀糸。
その髪に指を指しいれ抱き返す。

「優しい小太郎。私は、きっと、お前の事も愛おしい」
「ああ」
「でも、今はまだこのままで・・・・このままでいさせてくれ」
「ああ。。お前の好きなように」



凛と咲き誇りながらも硝子細工の様な脆さを垣間見る。
(優しすぎる不器用な貴女が今も昔も愛おしいのだ。あの頃から。)