柔らかく優しく月光の光の様に微笑む姿。
その姿に心奪われ、この方だけはどんな事があろうと守ろうと思った。
誰よりも美しい月光の姫君。
忠誠を誓うは身を焦がす想い故
十六夜の月が空に浮かび、冴え冴えと輝く宵の刻。
貴女は静かに微笑まれて口を開き、紡ぐ。
「小太郎。少し降りておいで」
「・・・・・」
呼ばれればすぐさま貴女の後ろに降り立ち、跪く。
その姿に貴女はいつも苦笑を浮べられる。
「そんなに硬くならないで。隣に座りなさいな」
「・・・・・」
ふるふると首を横に振るとまた苦笑を浮べられる。
主である貴女の隣になど座る事もおこがましい。
なのに、貴女はいつもそうやって私を誘われる。
その度にそれは出来ないと首を横に振るのだが結局貴女の一言に聞いてしまう。
「では、命令です。座りなさい」
「・・・・・」
その言葉に躊躇いながら隣に腰をかける。
仄かに彼女から香る白梅の香りが自分を酔わせる。
どこまでも清廉とされた香りに。
「小太郎。今日はまた月が綺麗ですね。こういう夜は貴方に初めて会った日を思い出します」
彼女の声に耳を傾けながらそっと頷く。
忘れる筈などない。
あの月光に瞬く貴女の姿を。
今日と同じように十六夜の月が浮かぶ夜空の下、静かに舞い踊っていた。
桜花の花弁と共に舞う姿はまるで神を思わせる程美しかった。
「ふふ。あの日は驚いたのです。舞を舞っていた私の前に急に現れるものだから。
でも、あの日に舞を舞ってよかった。貴方に会えたのですもの。小太郎、貴方もそう思ってくれるかしら?」
勿論だ。
あの日、貴女に会え無ければこうも満たされる日々が来るとは思いもしなかっただろう。
充足と安息。
それが、貴女によって与えられる。
貴女を守る事で満たされる。
愛おしい貴女を守れる誉れ。
全てそれはあの日から。
だから、その気持ちも込めて力強く頷いた。
それを見た貴女は嬉しそうに微笑まれる。
その笑みにまた幸せを覚える。
「小太郎。少しお願いがあるのだけれどいいかしら?」
唐突な言葉に首を傾げて言葉を待つ。
すると、貴女はそっと私に身を預けた。
驚きのあまり息をする事すら忘れそうになる。
「少しの間だけこうさせていて。少しでいいの」
切に願う貴女の声に私はそっと頷いた。
貴女の温もりを感じてそっと瞳を閉じる。
こんな時が永遠に続けばいいのにと。
だが、それが続く事などなくそっと貴女は離れていった。
「ごめんなさい。いきなりあんな事して。不安になったの。少しだけ」
その不安が一体何なのかは判らないがその不安を拭えないかと考えを巡らせる。
が、不安の原因が判らなければそれを解決術など浮かぶ筈もない。
貴女のその不安を取り除く為ならこの身に代えても成し遂げるのに。
「小太郎。ずっと傍に居てくださいね。私の傍から離れないでくださいね」
ああ、そうか。
その言葉で理解した。
貴女は私を思って不安を抱いてくださったのかと。
思わず微笑を浮かべてしまう。
貴女がそれほどに思っていてくれると。
身に余る誉れに。
「姫・・・」
「小太郎・・・?」
貴女の前で初めて言葉を紡いだ。
驚き目を見張る貴女に続けて告げる。
「永遠に居ます。貴女の傍に」
「小太郎・・・ええ、居てください。私の傍に」
私の言葉に微笑まれた貴女は嬉し涙を流す。
きらきらと流れる雫は月光に照らされ光る。
本当に傍に居たい。
ずっと、ずっと傍に。
でも、もし貴女の身に危険が及べばきっと自分は身を持って守る。
なればきっとこの願いは叶わないのだろう。
そう判っていても貴女の永遠に居ると告げたのは。
自分の願いだったのかもしれいない。
「小太郎。少し降りておいで」
月光が輝く宵の刻。
その度に呼ばれる自身の名に。
素直に降り立つ自分をどうか許して欲しい。
貴女を愛する愚かな影を許して欲しい。
貴女の声を日夜待ち続ける。
(貴女の傍に常にいるけれども。唯一触れれる月夜を想う。)
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