「クロロ・ルシルフル。久しぶり。相変わらず超絶不幸な顔してるね。頭ハゲそう」
「久々に会った友人に失礼極まりない挨拶ありがとう。・ゾルティック」

何故か機嫌の悪い時によく会う友人が楽しげに頬に返り血を付けて立っていた。
バックには開いたベランダの窓と風にそよぐカーテン。
そして、苛立つ程に上機嫌な満月が輝いていた。






最悪な満月に始まるネオドラマ







「やっぱり機嫌悪い。女にフラれたから?」
「覗き見か?趣味が悪い」

自室のベッドに座っている俺を見下ろす彼女の真っ黒な瞳。
双子だけあってイルミとよく似た美貌の持ち主だ。
イルミよりは人間味溢れているが。(むしろ溢れすぎ。)

「だって仕事帰りに偶々見えたんだもの。趣味じゃないわ」
「偶々見えて機嫌の悪い所にわざと来て茶化すのは趣味が悪いと思うが?」
「あら、揚げ足を取らないで。全く拗ねた大きな子供ね。貴方は」

クスクスと楽しげに笑う姿。
これでは本当に遊ばれている子供ではないかと思い、溜息を吐く。
とは付き合いが長いが全く持って感情が読めない。
にっこりと笑ってはいるが実際はどう思ってるのかなんて理解も出来ない。
流石ゾルティックという所だろうか。
全く食えない一家である。
でも、それでも友人だと言えるのはどこか彼女とは気が合うからなのだと思う。

気が合うだけで友人だなんて変な関係だが。
傍に居るだけでぐっと楽な気分になる。
安らげるのだ。
暗殺者が傍に居て安らげると言うのもこれまた変な話である。

「何が原因でフラれたの?」
「何を考えているか解らないといつもの決まり台詞だな」
「またなの?貴方も女を見る目がないんじゃない?バカ女ばかり捕まえてるからフラれるのよ」

今まで付き合ってきた女をバカ女と称するも中々素晴らしい性格だと思う。
確かにお前なら俺の思っている事を全て口に出せるだろうが一般人の女はそうはいかない。
そういう教育をされていないのだ。
判る筈もない。

「煩い。茶化すつもりなら帰れ」

全く話にならんとそう告げると彼女はまた笑みを深めた。
何だか嫌な予感がするが気のせいだと信じたい。
だけど、その美しい相貌で綺麗な微笑を浮かべられれば目を離せなくなるのが男の本能と云うやつで。
俺は視線が逸らせぬまま彼女の言葉を待った。
その瞬間、じっと近付いてくる顔に驚き目を見開くとその瞬間唇を奪われた。
余りの驚きにキスをする時は目を閉じるのがマナーだとかそういった事は頭から吹き飛んだ。
触れるだけのキスが数秒続き、リップノイズが軽く響いて離れていく。
彼女の少し伏せられた瞳が扇情的で思わず顔を真っ赤に染める。
どうにもおかしい。
今まで本当に友人としか見ていなかった彼女がこうも魅力的に見えるのは。
そうだ。
これは一時の夢なのだと自分に言い聞かせるが
その思考さえブッ飛ぶ台詞が彼女から飛んでくる事になり、それは不可能となる。

「私が幸せにしてあげるわ」
「・・・・は?」

思わず間抜けな声が出る。
超絶男前な台詞を告げられた気がするのだが気のせいだろうかと瞬きを繰り返す。
すると、彼女が愉快そうに微笑んで続けて告げた。

「だから、私が幸せにしてあげる。だって、超愛しているもの」

にこにこと穏やかな笑みで淡々と告げられた俺はついには瞬きをする事すら忘れてしまう。
嗚呼、本当に目の前の彼女は一体何を言ってるのだと何度も脳内で繰り返す。
長い時間そうやって居た様な気がするが多分実質は数秒の事だったのだろう。
俺は肺活量の限りを尽くし声を上げた。

「はぁああああああっ!?ちょ、おまっ!?いきなり何を!?」
「やっぱり問題はクロロよね。雰囲気ぐらい読みなさいよ。愛の告白の後にそんな叫び声は野暮ってものよ」
「いや、叫ばずにいられるか!!」

そんな素振りなど今まで見せていなかった女にいきなりそう言われれば驚くのも無理はない。
何せ恋愛とは程遠そうな暗殺一家の長女だぞ。
思いもしないという問題じゃない。
だが、今目の前に居る彼女がこれを現実だと知らしめる。
ああ、本当に顔が熱いし、鼓動は煩い。
これをどうしてくれるんだ。
お前は。
反応に困っていると彼女は身体を起し、ベランダに向かう。

「何だか混乱してるみたいだし、今日はこれで失礼するわ。明日来るから」
「お、おい!?」
「じゃあ、色好い返事待ってるわ」

ベランダから飛び降りた彼女を慌てて見るが既に姿はなかった。
俺はその場にずるずると崩れて紅い顔を抑えて頭を抱え込む。

「本当に今日は厄日だ」

満月が混乱する俺を嘲笑うかの様に煌き、雲間に隠れていった。



友人の仮面を被った暗殺者。
(心臓が壊れそうな程動き倒す。きっと彼女は俺をときめき殺す気だ。)