貴女が居れば何も要らない。
何も、要らない。
だから、だから、どうか俺から離れて行かないで。
俺の傍にずっと居て。
それだけが―――俺の唯一の欲望で、願望なのだから。






純血マリアージュ







姉さん」
「何?壬晴」

名を呼べば、名を呼び返してくれて、綺麗な笑み。
干乾びた土に水が染み渡る様に渇きを癒してくれる。

「何でもない」
「そう?」
「うん」

絹糸みたいな髪を一房手に取ればさらさらと零れ落ちていく。
姉さんはまるで生きた人形。
美術品みたいに洗練と整った美貌はビスクドールを思わせる。
肌は象牙の様に白く滑らかで、瞳は硝子の様に蒼々と輝いて。
胸には確かな柔らかな膨らみ、腰や足や手や首は細く華奢で強く掴めば折れそう。
そんな姉さんを誰もが恋し、羨望し、渇望する。
でも、姉さんの心は俺だけのもので誰にも渡りはしないけど。
それは何かに裏づけされた訳ではないが確信にも近い自信だった。

姉さん」
「何?壬晴」
「ずっと傍に居てね。俺だけの傍に」

乞うように瞳を閉じてその腕を抱きしめれば、
姉さんは優しい柔らかな笑みを浮かべて、読んでいた本を置くとそっと頭を一撫でしてくれた。
俺だけに見せてくれる特別な笑顔。
それを見る度に俺の顔は綻んでしまう。

「勿論よ。壬晴。壬晴がそう望んでくれる間はずっと傍に居るわ。」

言葉に偽りなんて含まれておらず、きっと本当に望んでいる間は傍に居てくれると判った。
決して確実な確証ではないけれど、心の奥底で偽りがないと響くのだ。
俺はそんな姉さんに御得意の小悪魔の笑顔を浮かべて、小首を傾げる。

「そんな事を言われたら本当に離れないよ?」
「ふふ。いいわよ」

優しい言葉に、優しい想いに、溺れて落ちて。
俺はこてんと身体を姉さんに預けて瞳を閉じた。
触れる温もりだけが鮮明に俺の感覚を支配して心地よくて。
俺はきっと姉さんの為だけに生きて、姉さんの為だけに死ぬ。
それでいい。
他は何もいらない。
愛おしい姉さんが居れば俺はそれだけで生きていけるから。

姉さん。愛してるよ」
「ええ。私もよ。壬晴」

姉さんにとってそれが親愛の愛情なのか、特別な愛情なのかは判らない。
でも、どちらでも構わない。
姉さんは今も昔も俺だけを見てくれているから、きっと、それはこれからも変わらないと思えるから。
健やかな時も病める時も彼女を愛し、彼女を助け、生涯変わらず彼女を愛し続ける事を俺は密かに誓う。


常識を逸脱していようとも。
(この身に流れる貴女と同じ血すら愛おしく)