第六天魔王が長姫である私、は只今大変な窮地に陥っていました。
いつも父上と母上と蘭君にあの男の前で一人になってはいけないと言われて来たのに。
意図せず一つの部屋に二人っきりになってしまい、あまつさえ身の危険を今感じております。
何せ私の顔の真横に彼の男、明智光秀の愛武器の片鎌がざっくりと刺さっているのです。
更には顔をそれのせいで少し切り流れ落ちた雫を舐められている所存です。

(父上!母上!蘭君!誰でもいいのでどうか助けて下さいっ!!)

どうにも肌が粟立つのが止められず固まるばかりの私の心を恨みながら心の中で叫んだ。






生粋の変態は裏返しても変態







「ああっ!流石は信長公の娘・・・血の味が同じですねぇ・・・」

舐めた事があるのかと心の中で突っ込みながらも思わず後退したい気分に駆られる。

「光秀、殿・・・と、取り敢えず退いて下さったりはしませんか?」
「嫌です。退いたりしたら逃げてしまわれるでしょう?姫」
「はい。逃げます。逃げたいです。かなり今の現実から逃避したいです」

必死に訴えるが光秀の眼光は鋭く光り、一分の隙も与えず私を捉える。
父上と母上の事は大好きであるがどうしてこんな男を城内に野放しにしているのだと少し恨めしく思えてきた。
未だに頬を舐めている光秀に対して何とかこれ以上の事をされぬように現状打破に思考を巡らせるが正直無理。
舐められる感触の異様さに身震いするばかりでどうにも思考が落ち着かない。

「本当に退いてください。御願いします」
「何度聞いても答えは同じですよ」

もう一度駄目元で御願いしてみたが即答される。
嗚呼、本当に誰か助けて下さいと思った瞬間何かが腹部に当たった。
硬く熱いその物体に思わず視線を下にやれば見てはならぬものを見てしまった。
流石の私も顔を青ざめて思考よりも行動を優先した。

「きゃあああっ!!何て事して下さっているのですか!?」
「何をと言われても・・・ああ、下のこれならつい熱くなってしまいましたね」
「ついって!?ついって!?ありえないです!きゃああ!それを擦りつけないで!!!」
「自然現象です。受け入れて下さい。寧ろ触って頂いても・・・・」

光秀はここぞとばかりにえげつない言葉を並べて迫ってきた為、
ついに父上の家臣と思って手を出さなかった私の足が振り上げられた。

「きゃああ!!きゃっ、きゃっきゃああああ!!」
「うぐっ!?」

予想外に急所に入ったその蹴りに光秀が蹲る。
私は息を乱しながらも入り口の方に這って逃げると片手を急所に当て、もう片方の手で私を掴む光秀。
それに錯乱した私は何度か顔を蹴り飛ばす。

「触らないで下さいぃいいいい!!」
「あ、ぐぅっ!ぐはっ!?あああ・・・これはこれでグフッ!いいっ!!」
「何を言ってるんですか!?ち、父上!!母上!!蘭君!!助けてぇ!!」

何故か蹴られて恍惚とする光秀に今まで一番大きな声で叫ぶと物凄い走る音が響いた。
そして、そのまま部屋に誰かが入ってきたかと思うと何かが顔の横を通って光秀の顔に向かって飛ぶ。
それを光秀は寸前で避けると後ろへ下がった。
私はそこで漸く自由を取り戻して助けてくれた人物に駆けていた。

「ら、蘭君!!!」
姫様!!大丈夫ですか!?あの変態に何かされましたか!?」
「な、なんか押し当て・・・」
「死ね!光秀っ!!」

状況を説明し終える前に蘭君の弓矢が雨嵐の様に光秀に降り注ぐ。
光秀はそれを武器で潰しつつも全部避けきると身体を揺らしながらこちらに向かってきた。

「きゃああっ!!来るぅうう!?」
「蘭丸君!!お退きなさい!!」

凛とした声が響き渡り、それに反応した蘭君が私を担ぐとそのまま後方に後退した。
それと同時にドドドドドドッ!と銃声が響き渡り、辺りに煙が舞う。
暫くそれが続き再び沈黙が訪れるとゆっくりと煙が引いていく。
すると、煙の中から母上が姿を現して私は母上へと駆けていった。

「は、母上!!」
!ああ、ごめんなさい。
私が一人にしたばっかりに・・・この母が塵にして上げましたから安心なさい」

にっこりと微笑みながらも漂う硝煙の香りは剣呑として戦慄を覚える香り。
だけど、それが酷く母上らしい香りで安心すると私は涙を流した。

(よ、漸く本当に助かったんだ・・・・)

そう安堵しているとガラガラっと何かが崩れる音が響く。
私はそれに身を振るわせてぎぎぎっと音が鳴りそうなほどゆっくりと振り返る。
すると、確実に死んだかと思われた光秀が頭から血を流しつつも立ち上がったのだ。
恐怖再びに私は母上の後ろに隠れて叫ぶ。

「きゃあああ!!」
「ふふっ・・・痛い。痛い・・・危うく死んでしまうかと思いましたよ」
「くっ!!しぶとい!!」
「あーもー!!だから、光秀相手にすんのは嫌なんだよ!!」

再臨した変態に私はひたすら叫ぶ中、必死に父上を呼んだ。
こんな状況を打破出来るのはもう父上しかいないと藁にも縋る想いだった。

「父上!!父上!!」

その声が天に届いたか否か判らぬが視界をざっと紅いマントが埋め尽くす。
私はその背に漸く心からの安堵を覚えた。
魔王と恐れられる父・織田信長の姿だったからだ。
人々に恐れられようとも私の前ではとても優しい父である為、私は嬉しげに声を上げた。

。泣きやめぃ。わしの手、直々に始末をつけようぞ」
「父上ぇ・・・!!」

恐怖が吹き飛び今度は安堵の涙を流すと父と光秀が対峙する。
そこで光秀は嬉しげに微笑むと狂喜した様に声を上げた。

「ああ!!信長公に姫・・・ふふふふふ・・・ふははははっ!!」

喜び満ち溢れている光秀に無表情で母上と蘭君が武器を揃って構える。
そして、父上が走り出しながら声を上げた。

「撃てぃ!!」

声と同時に銃弾と矢が光秀に降り注ぎ父が攻撃を仕掛けた。
轟音と共に一室が全壊すると何事もなかったかの様に私は父上に抱き上げられてその場を後にした。
そして、数日後。
度重なる光秀の襲撃を受けた私は防衛線を張り続け戦う蘭君と父上の姿を母上と一緒に見て冷めた表情で一言告げた。

「母上・・・天才と馬鹿は紙一重だとか天才と変態は紙一重だとか言いますけど変態は何処までいっても変態ですね」
「ええ。ですから、も絶対あんなものを近づけてはなりませんよ?」

母上の言葉に実体験したは物凄い重みを感じたのだった。


魔王の姫は災難多々。
(秀吉様、秀吉様。変態からの護身術教えて下さいませ。)
(・・・・は?)(同じ変態からの被害を受ける者同士でしょう?)