絶対に赦さぬ。
お前が俺から離れる事など如何なる事があろうと赦さぬ。
お前の全ては俺のものなのだから。

・・・」

お前を呼んだ声がこんなにも渇き、掠れたものであった事があっただろうか?






三秒で変わる世界







鮮血飛び散り、紅い華が咲く地面。
貫かれた身体をそのままには目の前の敵を斬り伏せて、そして、崩れていった。
自分の目の前でぐらりと崩れたその身体を俺は無意識に腕を伸ばし、抱き止める。
血に濡れる感触をそのままに名前を呼ぶ。

・・・?嗚呼・・・・・・」
「三成、様・・・」

必死に返された俺の名が鼓膜を揺らす。
だが、それも束の間微かに浮かべられた笑みと共にその瞳から光が消える。
騒々しい戦場の声が一瞬で掻き消えて闇が俺を襲った。
認めたくない現実に、彼女の死に。
愛した女の亡骸を抱くこの腕の何と悲しい事かと辛き事かと嘆いて、涙が自然と零れる。
が、次の瞬間、肉を裂く音が耳の奥でまた響いた。

「かはっ・・・!?」

貫かれたのが自分だと気付いたのは己の口から流れ出た血潮。
彼女の亡骸から手が離れ、彼女が転がり落ちるとその少し離れたそこで俺も横へと倒れ込む。

・・・っ!」

痛みなどを通り越してしまい、ただ、無我夢中でへと手を伸ばす。
あとちょっとという所で指先が触れる。
だが、俺の身体は思う様に動かず、幾度も土を握り締める。
そして、俺がに二度と触れる事はなかった。
墜ちる意識が触れる事を赦さず、俺はそのまま逝った。
と俺の血が混じるその場所で、悔恨ばかりを募らせて逝った。

「―――――っっ!?」

浮上した意識と共に飛び起きた俺は今のはなんだと思いながら辺りを見回した。
そこは見慣れた自室であり、戦場ではなかった。
自分の手には血もついておらず、傷もない。

「夢、か・・・?」

息を整えながら自分に対して問う。
その時、丁度部屋の戸口からが控え目にこちらへと向かってきた。

「三成様?如何なされましたか?
何やら声が聞こえたもので勝手に入らせて頂きましたが・・・」

近付いてきたの姿にやはり先程の光景は夢だったのだと実感し、漸く肩の力を抜く。
自身の汗を拭うもあの恐ろしい悪夢に身を振るわせる。
まるで、幼子の様な自分が滑稽だなと思いながらも
それでも目の前のを見つめれば恐れるのも無理でない話だと思い直す

「三成様?本当に大丈夫ですか?」

私の隣に膝を折ると普段と違う私の様子を見て心配そうにはそう尋ねた。
のその姿を見て私は何かを口にする前に両の腕を伸ばして、を抱き締めた。

「三成様?苦しいっ・・・」
、俺から離れるな」
「三成、様・・・?」
「俺から絶対に離れるな。お前は俺のものだ。
勝手に何処かへ行く事は赦さぬ。ましてや死ぬ事など赦さぬ」

戒める様に呟く言葉に苦しそうに身を捩っていたは動きを止める。
力を抜き、そっと俺の背に腕を回し、抱き返すと幼子をあやす様に背を叩く。

「私は三成様から離れませんよ。絶対に」
「そうか・・・なら、いい。その言葉を違えぬなら、それでいい」
「違えません。はいつも三成様の御傍に居ます」

を抱く腕を緩めて、の肩口に顔を埋めるとそっと瞳を伏せる。
から香る甘く優しい香りが肺を満たすと自然と心が落ち着いていく。
傍に居るのだと実感できる熱と香りに包まれ、その夜は過ぎ去っていく。
だけど、俺はこの夢を忘れる事がきっと出来ないだろうと思った。
この乱世に生きる限り起こり得る事なのだからと。


それでも、俺は永劫傍に感じていたい。
(愛おしく狂おしいお前の全てを感じて生きていたいのだ)