阿修羅の如く、刃を振るい、戦場を舞う。
血に彩られたその表情は残酷な程美しい。
あいつは戦場では狂人だった。
狂わねば立ってなどいられなかった。
あいつをそういう風にしてしまったのは他でもない俺自身だった。
舞姫は戦場に咲く狂気
出陣する度にあいつは狂っていく。
いや、もう狂い過ぎてあいつは狂気そのものなのかもしれない。
血の匂いを焚き染めるように衣に血を躍らせる。
無表情で敵を斬り、道を開く。
常に戦線の最前線を進む阿修羅。
俺の軍で唯一冷徹に徹することの出来る人物。
はっきり言ってあいつが武将として俺の傍に居なければ俺はとっくに死んでいただろう。
そう、あいつは俺を支える影なのだ。
残酷非道さも戦いには必要だがどうにも俺はそれになりきれない。
それを支える影があいつなのだ。
だが、そんなあいつは俺の大切な女で出来るならば戦場に立たせたくない。
でも、もう立たせない訳にもいかない。
あいつはもう軍の要だから。
「!」
制止の声が聞こえないのかまだ敵を斬り進む。
怯える敵兵たちは立つ事すらままならぬようでその場に座り込み震えるだけだ。
それを冷酷に一人また一人と斬り殺す。
それに俺は近付いて腕を掴んで制止した。
「!!もう戦は終わった!!・・・・っつ!?」
大声でそう止めに入ったならば彼女の身の丈以上ある刀の切っ先が喉に宛がわれる。
だが、は俺だと認識すると刀を仕舞い前の敵を一瞥した。
「ごめん。元親。怪我、してない?」
振り返ったは先程とは打って変わって心配そう俺の首を擦る。
そんなの姿に俺はいつものように微笑む。
「おう。大丈夫だ。気にすんなっ!」
「そっか。ならよかった」
そう、微笑めばも同じように微笑む。
そして、陣へ戻ろうと共に歩き出す。
屍が続くその野を横断していく。
「元親」
「なんだ?」
急に呼ばれた俺はを見つめて聞き返す。
すると、は淡々と告げる。
「さっきのはどうも私の悪い癖みたいだ。
戦の最中はどうも正気でなくなるから近付くものは敵に見えてしまう」
「・・・」
「この狂った感じは嫌いではないけれど元親に刀を向けてしまうなんて駄目だな」
「・・・」
「でも、戦場に立つ以上、情は少しでも抑えていた方が・・・・」
「!!」
淡々と話すの腕を引き、名を叫んだ。
強くを抱きしめて縋るように告げる。
「元親・・・?」
「もう、いい。もういいんだ。すまねぇ・・・」
「なんで、謝るの?元親は何にも悪くないよ」
「いや、俺のせいだ。俺が、最初から止めておけば・・・」
今更後悔したってどうにもならない。
わかっている。
わかっている。
だけど、謝らずには居られなかった。
「すまねぇ・・・・・・っ!!」
何も言わなくなったにただ謝り続ける。
俺に出来ることは謝る事、そして・・・・
の平穏を取り戻す為に早く、一刻も早く天下を手に入れる。
それだけだった。
歯痒くもただ、それだけだった。
許しを懇願するかの如く接吻を交わす。
(狂い狂わせた俺がお前を愛し続ける事なんて許されない。)
(俺は、それでも永遠に愛し続けるのだろう。)
back