貴方が死ぬ時は私が命を絶ってあげる。
貴方の生も死も全て私のものにしたいから。
そう望む私は狂ってるのかしらね?






純愛ノワール







とてもとてもその日は月が綺麗で。
ただ、私はぼんやりと眺めていた。
飽きることもなくただひたすらに。
そんな時、隣で人の倒れる音が響く。
何事かと思い、視線を撃つするとそこには三人の子供の姿。

「・・・どうしようかしら。これ」

私は驚くよりも何よりもその子供たちをどうするかが先に頭を過ぎった。
とりあえず抱き起こしてみようかと思い、手を伸ばすと急にその子供の一人が動いた。
私は反射的に後ろへと飛び下がる。
そして、前方を見るとそこには矛を持った少年が立っていた。
それも酷く苦しそうに。
満ちる少年の殺気はあまりに冷たい。
はその殺気を感じた時にようやく気づいた。
少年たちの体に染み付いた血の匂いと殺人者として生きてきたであろうその光のない瞳に。
幼い表情に似合わないそれに私は顔を歪めた。
嗚呼、私と同じような運命を辿る子がいるなんて・・・と。
そう思い、気づけば私はただ彼に手を伸ばしていた。
彼は何をする気だと言わんばかりに私に矛を向ける。
しかし、矛は私を貫くことはない。
鋭く射抜くように迫ってきた矛を手でしっかりと掴み取り、奪う。
驚愕の笑みを浮かべる少年。
自身の命がここで終わるのかと思ったのだろうか?
でも、違うよ。
私は、貴方たちを守ろうと決めたんだ。
勝手にだけどね。

「貴方、苦しかったのね」
「何を・・・」

疑念の眼差しが向けられるが気にしない。
信用できないのは無理もない事なのだから。
私はただ、彼に手を差し出した。

「何もしないわ。いらっしゃい。私と一緒に」
「行って何があるんです?」
「さぁ?わからないわ」

正直にそう話すと少年はどう反応を返していいのかわからないみたいだった。
その姿に微笑を浮かべるとまだ横たえていた二人の少年を抱きかかえた。

「選ぶのでしょう?貴方はこの手を」
「なぜ、そう思うのです?」
「貴方は私と似ているから」
「・・・変な人ですね」

素直にそう告げた少年に私は声を上げる。

「そうかもね。よく言われる。ああ・・・今更だけど私の名前はよ」
「・・・そうですか。・・・私は骸です。六道骸。そして、そちらが城島犬。こちらが柿本千種です」
「そう。よろしくね。骸」

それが出逢いであり、全ての始まりだった。
あれから数年後。

「何をぼんやりとしているんです?
「ああ、骸。ちょっと昔のことを思い出していただけよ」
「昔、ですか」
「ええ、昔。貴方がまだこんなに小さかった時の話」

そういって私は手を自分の胸元辺りに伸ばした。
骸はそれに大して明らかに嫌そうな顔をする。

「・・・そんな昔のこと忘れてください」
「それはできないわね。私、記憶力だけはかなりいいの」
「・・・本当に貴方は喰えない人ですね」

肩を竦めてため息を吐く骸には微笑を浮かべた。
気づけばもうこんなにも年月は経っていて。
どうも不思議だと思って。
そして、何よりも不思議なのは自分の心情の変化かもしれない。

「全く、何故かしらね・・・・」
「何がです?」
「貴方を愛したことよ」

素直に告げると骸はくすっとそれは楽しげに笑う。
その仕草を見ては長年の勘で嫌な予感がした。

「骸?・・・んっ」

振り返ってみると案の定。
彼の手がすっと私の頬に触れた。
そして、止めようとする間もなく唇を塞がれる。
不快には思わないけれど不意打ちは卑怯だと思う。
そんなことを頭の隅で考えていると唇がそっと離れた。

「貴方は本当に可愛い人ですね」
「・・・一応礼は言っておくわ」

無愛想にそう告げたけれどきっと骸には見抜かれているのだろう。
彼の楽しげな表情がそれを全て物語っていた。

「ねぇ?骸」
「なんです?」
「貴方が死ぬ時は私が殺してあげるわ」

唐突に告げた私の言葉に骸は目を丸くしたがすぐさま笑みを刻む。
それも今までにないぐらい幸せそうな笑みを。

「それはいいかもしれません。貴方が僕たちを拾ったあの日から僕は貴方のものですから」
「私もきっとそうよ。だから、私が死ぬ時は貴方が私を殺してね?」
「ええ、約束します」

奇怪な約束。
それは常人とはどこかズレた私たちだからしょうがない。
でも、私は思うの。
私たちは本当に純粋に愛し合っている。
それだけは真実だと。
純粋な愛だからこそなんだって出来るんだ。

「骸、そろそろ寝ましょう」
「ええ、そうですね。貴方に風邪でも引かれたら大変ですしね」

月の光が満ちる中、二つの影は窓辺から姿を消した。