「愛してますよ。さん」
「はいはい・・・」

この男の愛の言葉が軽すぎる気がするのは
常日頃から毎日言われているせいだろうか、と思う今日この頃。
口を開けば好きです、愛しています、なんて言葉が飛んでくる六道骸と言う男。
初めこそ照れはしたものの今では平然と返せる様にまでなってしまった。
それでもこの男はやはり懲りずに愛を今日とて紡ぎ続ける。






希少価値に比例する魅力







(言われ過ぎて慣れてしまった事はともかくとして
残念ながら私はこの男をそれなりに想っていたりするのだったり)

読んでいた雑誌から少し顔をあげて、ちらりと隣で同じく読書に勤しむ骸を見た。
黙っていればそれなりの顔立ちで美青年なのだが口を開けば正直、変態。
何故、好きになってしまったのかと言えば馬鹿な子程可愛いという奴で、
大概、私も物好きだとは思うのだが好きになってしまったものは仕方ない。

(言動さえ無視すれば知識も豊富で戦闘にも長けていて、それなりに紳士的だったりするしね)

恋は盲目と言われてしまえばそれまでだとも思うが
好きになってしまったものは仕方ないと再度胸中で自分に対し、言い訳を述べてみる。
だが、少々の後悔の念を感じざる得ないのは
何故だろうかと思わず小さく溜息を吐くと再び雑誌に視線を戻す。

(そういえば、私って骸にそういう言葉を投げ掛けた最後って何時だろう・・・)

ふとそんな考えが過ぎり、再び思案し始める。
しかし、考えれば考えるほど一体最後に愛の言葉を紡いだ日が思い出せない。
下手をすれば恋人になった時以来じゃないだろうか。
そこまで思い至って私は何だか愛を囁き過ぎる骸よりも酷い女ではないだろうかと思わず顔を青くする。
再び、ちらりと骸を見れば丁度、骸が私の視線に気付き、微笑みを返してきた。

「どうかしましたか?さん」
「あ・・・いや、別に・・・」

何でもない、とまで言い掛けて言葉を止める。
これは丁度いいタイミングなのではないだろうかと。
たまにはそういう事を言わないと流石の骸も可哀想だとかそういう思考が脳内を占領していく。
骸は不思議そうにこちらを見て首を傾げているのを見て、私は腹を括り、大きく深呼吸を一回。
顔に熱が集中してくるが気にしない振りをして、雑誌をテーブルに置くと骸に向き直る。

「あの、さ・・・骸」
「はい?何でしょうか?」
「その、私も骸の事、ちゃんとあ、愛してるからね。滅多に、言わないけど・・・」

途切れ途切れにだけど、確実に伏目がちにそう告げ切った私は骸が有頂天になって騒ぐかと身構えた。
しかし、暫くしても骸が動く気配を感じられずに骸へと視線を戻すと口元を掌で隠して視線を逸らす骸が居た。
予想外の反応に呆気に取られると骸ににじり寄った。

「ちょっと、骸?」
「ちょ、ちょっと待って下さい!今、物凄く情けない顔をしてるので!」
「何が・・・ってあんた、耳まで真っ赤なんですけど・・・」

必死に顔を隠す骸の手を強引に引くと頬から耳まで真っ赤に染めて照れている骸の顔が露わになった。
再び、呆気に取られた私は強引に引き剥がした骸の手を握ったまま硬直する。
すると、骸は観念したかの様に一呼吸置いて、口を開いた。

「その、言うのは慣れているのですが、言われるのは滅多になくて・・・
思わず、驚いたというか、何と言うか・・・その、すみません・・・怒り、ましたか?」

まだ、顔を赤くしたまま不安げに此方を伺う骸に思わず心臓が高鳴る。
煩く耳に響く程の心音に私は思わず俯く。

(え、いや、あの私までおかしくなってきたんですけど!?)

鼓動がどんどん高鳴っていき、これはもうときめいているとしか言い様がないレベルで。
再び、骸が不安げに此方を伺っているのを見てまた心臓が高鳴る。
何と言うか私は不覚にもこの目の前の長身の男が可愛いと思えてきたのだ。

「あの、・・・?」
「!あ、えっと、怒ってない。怒ってないから!!」
「そう、ですか?それならいいんですけど・・・」

本当にやばいという言葉が脳内を過ぎる。
骸の一挙一動が可愛くて仕方ないのだ。
これは、女性特有の母性本能を刺激されたとかそういうのだろうか。
ぐるぐると思考が巡るが最終的に私はそんな事すらどうでもよくなってしまった。
私は再び骸にぐいっと迫ると骸は少し驚いて後ろに引いた。

「骸・・・」
「な、なんでしょうか?」

おどおどと珍しく動揺を示す骸にまたときめくと私はそのまま骸に飛び掛って、抱きついた。
急に抱き締められた骸は抱き止めるもそれ以降どうしていいのか判らぬまま硬直する。

さんっ!?あの、どうした・・・」
「あーもう、本当に参った!」
「え?あの?」
「骸をこんなに可愛いと思うなんて・・・ああ、もう、本当に大好きよ!」

勢いでそう紡ぐとすかさず骸の唇に口付ける。
軽く触れる程度のキスだってけれど、骸は再び顔をこれでもかという程に
赤く染めるには充分だったらしく、ついに骸は涙目になっていた。
そんな骸を見て、私の心臓が再び高鳴ったのは仕方ない事だと思う。


可愛らしい恋人にキスの嵐を。
(あの、ちょっと!?さんっ!?)
(可愛い骸が悪いのよ!)