外国人でもないのに街中はハロウィンと言う事でちょっとした賑わいを見せている。
それを見ると日本人も大概お祭り好きだなと思ったが自分も人の事は言えない。
今日ぐらいはあの意地悪魔人に仕返しが出来るのではと
仮装用にと友達に借りた猫耳カチューシャを付けていざ戦場と言った心持ちで扉を開いた。






召し上がれと自ら告げた猫







「トリック・オア・トリート!さあ、ネウロ。お菓子を頂戴!」

偶然にも事務所の中にはネウロしか居なかった様だ。
自分専用の豪華な椅子の上で寛いでいたネウロはそう言った私に特に表情を返る事無く、入ってきた私を見つめた。
沈黙が辺りを包む中、私はネウロの前まで歩み寄って手を出した。
地上に来たばかりの魔人のネウロがハロウィンなど
知らぬであろうと思っていた私は特に反応を示さないネウロに勝ったと勝利を確信した。
小さく見えぬ様に空いた手でカッツポーズをする。
しかし、ネウロは急ににやりと大きく弧を描き意地の悪い笑みを浮かべると机の引き出しを開いて何かを取り出し私の手の上に置いた。
大きく色鮮やかなそれは所謂ロリポップキャンディ。
虚を突かれた私は目を丸くして掌に乗せられた飴とネウロを交互に見た。
ネウロは嘲笑う様に、更にはお前の考えている事などお見通しだと言わんばかりに声を出して笑った。
そう、私の喜びなどぬか喜びだったのだ。

「馬鹿め。貴様の考えなど読めているに決まっているだろうが」

やはり、そうかと私は長い指先に捉えられた頬を両サイドに引っ張られながら思った。
決して弥子ちゃんみたいに本気で抓られる事はないが痛い。
仮にも恋人なんだからもう少し優しく扱ってくれてもいいものをと思うが今日はそれを述べる事は出来ない。
普段の仕返しに悪戯をしてやろうと思っていたのだから。

「ううっ・・・」

小さく呻くしかない私は悔しげにネウロを見つめる。
すると、ネウロはにんまりと笑いながら何度も左右に引っ張る。

「大体、こんな面白そうな人間の作った行事を我輩が放っておく訳がなかろう」

言われて見ればそれはごもっともな意見で
更に言えば普段から勉強熱心なネウロが街を騒がしている行事をネットで知らぬ筈がない。
ネウロへの恨みが自分への浅はかさによる情けなさに変わる。
何て馬鹿なのだろうかと自分に呆れながらも漸く開放された私は両手で頬を擦った。
少し紅くなっているであろう頬を感じながらこれが因果応報かと物思いに耽っているとずいっと手を差し出された。
長い指先と大きな掌は間違い無く先程私を抓っていた目の前の魔人の手。
一体何だと思っていると魔人は信じられない一言を紡いだ。

「トリック・オア・トリート」
「は?」
「今日はそう言う行事だと知っているのだろう?ならば我輩にも菓子を渡せ」

菓子なんて食べない癖にそう要求してくる魔人。
その理由など判りきっていた。
ネウロの真の目的は菓子などではなく、悪戯の方だと。
冷静にそう分析した私であったが実は冷や汗たらたらであった。
何故ならばネウロはハロウィンなど知らないと思い込んでいた為、貰った菓子などは全部食べてしまったのである。
今、私が持っている菓子は手の中のロリポップキャンディだけ。
絶対絶命のピンチだと悟り、打開策を考えるが思いつく筈もなく、苦し紛れに笑顔を浮かべて尋ねた。

「このロリポップじゃ・・・」
「却下。それは我輩が与えたものだろうが」
「ですよね・・・」

がっくりと肩を落とした私はなす術もなく固まった。
そんな私との距離を詰めてくるネウロを見て私は逃げ出そうと踵を返した。
が、呆気なく背後から捕獲される。

「諦めて悪戯されろ」

そう耳元で囁かれる色めいた声が聞こえたがそれに酔っている所ではない。

「諦められるか!!」

バタバタと髪を振り乱しながら暴れる私を背後から満足気に微笑むネウロが腰に手を回し、そのままソファに押し付ける。
ふと横目であかねちゃんが居る筈の壁を見たが彼女の姿はなかった。
そこで理解したのはネウロは完全に手回しを済ませているという事だった。
言うなれば助けてくれる人物がここに来る事は絶対ない。
私は諦めて抵抗を止めるとネウロが再び抵抗を再開させるような事を呟く。

「折角、自身が猫耳などをつけてきたのだ。今日は猫プレイだな」
「はっ!?これはハロウィンの仮装!!そんな羞恥プレイするか!!」
「そうか。そうか。そんなに嬉しいか。でも、返事はにゃあだぞ?でないと手加減が出来んかもしれんな」

如何に脅せば屈服するか理解し切っているネウロの言葉に私は肩を震わせた。

「このっ、ド外道!!うっ、あんっ!?」

が、その悪態をついた後、悪態をつく暇もない程に激しく攻めたてられた私は翌日、起き上がる事も出来なくなってしまうのだった。



人を呪わば穴二つ。
(痛い。痛い。腰が壊れるー・・・外道!!鬼畜!!)
(最終的ににゃあと啼いて喜んでいたのだから文句を言うな。)(わー!!口に出すな!)