傍に居れば次第に移りゆくそれで我輩はお前を侵蝕していく。
髪も手も足も胸も腹も背も内臓も心も全て。
全て我輩で満たして染める。






侵蝕せよ、一片も残さずに







「何故、私はこんな往来でこんなに密着されてるのかしら?」

背後から回した両腕を力の限りを尽くし外そうとしているらしい
そんな姿も愛らしいと満面の笑みで見つめる。

「ん?細かい事は気にするな。。我輩がそうしたいからそうしているだけだ」
「ああ・・・そうですか」

我輩の言葉を聞けば素直になる辺りもまたいい。
この慎ましやかな性格と傾国美人と言っても過言ではない美貌。
まあ、その他諸々の要素を含め、女としてあらとあらゆる面が最上級であるは我輩が最も愛す者だ。
無論、も我輩を愛している。(ちゃんとその艶やかな桜色の唇で我輩の名を紡ぎながら告げてくれた。)
だが、しかしだ。
そこまで最上級の女ならば要らぬ蛆虫が寄ってくるのも然り。
蛆虫だけあって何度滅してもわらわらわらわら這い出て我輩を苛立たせる事この上ない。

「ね、ネウロ??い、痛いんですけど・・・」

苛々とした思考故か思わず抱きしめる腕に力が入ってしまったらしく痛みを訴えるの声が響いた。
それに慌てて力を緩め、腕の当たっていた部分を労わる様に撫ぜる。(撫ぜる肌も絹の様に滑らかである。)

「すまない。少々考え事をしていたものでな」
「考え事・・・?事件の?」

そう言われてみればここは事件現場だったと思い出す。
ああ、それにしても首を捻り、上目遣いでその蒼い瞳を煌かせて見られるのは堪らないものがある。
思わずこの場で押し倒してしまいたいがそれをすればきっとは怒ってしまうだろうから衝動をぐっと堪える。(そうしてしまえば蛆虫も減るだろうが。)

「まあ、そんな所だ」
「ふーん?」

不思議そうにしていたが特に気に留める訳でもなかったらしくまたは前へ向き直った。
我輩も蛆虫対策は後で考えるとして暫くはを眺めていようと集中し始めた。
その瞬間だ。

ちゃん!!それと助手!」
「やあ、ちゃん」

声を揃えて我輩に断りもなく我輩のの名を呼ぶ最も今厄介な蛆虫が二匹がやって来た。
思わず握り拳を作り誰かを殴りたい衝動に駆られる。
が、適任である筈の下僕ヤコが今いない。
全く使えん奴だと思いつつ、牽制を込めてをぐっと引き寄せた。

「こんにちは。笹塚さん、石垣さん」
「どうもこんにちは。刑事さん。本当によく会いますね」

会いたくはないが謎を食う為に度々役立っているから一応挨拶は返してやる。(笹塚衛士のみだが。)
だが、しかし一度撃退しておくべきかもしれない。
こいつらは蛆虫の分際で気軽にに触り、名前を呼ぶのだから。

「本当によく会うよね!ちゃん!これって運命だったり!!」
「は?」
「あはは。石垣さんは冗談が上手ですね!」

思わず魔帝7ツ兵器を呼び出しそうになった。(この我輩が耐えてやったのだ。感謝しろ。だが、いつか殺す。)
本当に油断も隙もない。
しかし、その後、この男の発言が我輩を喜ばす事となった。

「あれ?ちゃん。香水変えた?」
「本当だな。何だかいつもと香りが違うような・・・」

その二人の言葉には不思議そうな顔を浮かべる。

「私、香水つけてないですよ?シャンプーとかも別に変えてないし・・・香りが変わるなんて・・・」

確かには香水をつける主義ではない。
だが、元来の香りか甘く甘美な香りが漂ってはいた。
今も確かに甘い香りの筈・・・ん?
改めて匂いを嗅いで見ると確かに言われた通り甘いながらも少し変わった香りになっている。
何故だろうかと思っていたがくんくんと自分の香りを嗅いでいたがハッと気付いたように我輩を見上げた。
そして、何故かかぁっと顔を真っ赤に染めてしまう。
一体何事かと思い首を傾げているとが戸惑った末に我輩を手招きしたので顔をそっと近づけた。
すると、は両手を耳に添えて唇を寄せるとその淡い色の唇をゆっくりと開き、鈴の音の様な声で小さく告げた。

「香りが違うのってたぶんネウロの香りと混じってるからかもしれない」
「は?」

思わず間抜な声を上げる。
そんな我輩には恥ずかしげに慌てて理由を付け足す。

「だ、だってネウロが隙あらば抱きしめてくるから香りが移ってきてるんだとしか考えられないんだもん。
自分から微かにネウロと同じ香りがするからたぶんそうだとしか・・・うう、自分で言ってて恥ずかしくなってきた・・・」

暫くじっとを見つめていたが確かにを最近は朝も夜もよく抱きしめていたし移り香が残る可能性もあるだろう。
ああ、何だかとても言い様のない優越感が芽生えてきてふと笑みを浮かべる。
目の前の二人はその様子を見てよく判らないといった表情を浮かべているので我輩は善意の心持って丁寧に説明してやった。
目の前のをぎゅっと抱きしめなおして。

「きゃっ!ね、ネウロ!?」
「いやぁーさんも分析が鋭くなってきましたね!先生の傍でよく勉強してらしゃるから」

意味深ににっこりとそう告げれば腕の中のが何となく何を言おうとしているかを察して暴れだす。
悪いが離す気はない。
あわよくばこの蛆虫二匹の邪な思いを砕き潰してやれるのだからな。

「どういう事だ・・・?」
「そうだそうだ!それにちゃんを抱きしめるなんてさっきから狡いぞ!」

ごちゃごちゃと吼える二人ににっこりと微笑んできっぱりと大きな声で告げる。

「いえ、僕とさんは朝も夜もこうやって二人で居る事が多いので香りが移っちゃったみたいだって言ってましてね!」
「ネウロ!ああぅ・・・」
「「・・・・・え?」」

真っ赤に染めた顔を我輩の胸に押さえつけているをにこにこと抱きしめて二人に死刑宣告を言い渡す。

「僕に染まってしまう程、片時も傍に居て愛し合っていますからまあ、仕方がない事ですね」

ぴしっと音を立てて二人に衝撃が走る。

は腕の中で項垂れて我輩は満足の笑みを浮かべる。

「二人ともー!ちょっと来て!」

更にタイミングのいい事にヤコの調べ物が終わったらしい。
蛆虫を撃退した後の食事の時間とは中々良い事だ。

「さぁ。さん。先生が呼んでますし、行きましょうか」
「え!?ちょ、歩ける!歩けるから!!」

真っ赤になっていたを横抱きにしてヤコの元へと向かう。

「良いじゃないですか。僕とさんの仲なんですから。・・・そうだろ?

素早く耳を甘噛みして囁けば抵抗を直ぐに収まった。
これ以上の事もしているというのに何時まで経っても初々しいな。

「・・・っ。卑怯者ぉ・・・」
「ふふふっ」

しかし、まさか香りが移っていたとは思いもしなかった。
が、これはいい情報を得た。
これからずっとこの調子で傍に居れば何れ我輩の香りで染まりきるであろう。
そうなれば蛆虫撃退の苦労も減るというものだ。

。今夜も香りを充分に移してやるから覚悟しておけ」
「・・・っ!?」

全身を我輩の香りで満たし、その全てを侵蝕してやろう。
それは愛故の侵蝕。



交じり合う香りは何よりも馨しく。
(あれ?ちゃん。ネウロと同じ香りがする・・・)(・・・!?)
(ワラジムシでも判るか!これは上々の結果だな。ふふふっ・・・)