熱帯夜が続く程に暑さが増してきた今日この頃。
日中になるとそれはもう溶けてしまうのではないかと思うぐらい。
なのに隣に居る男は飄々と涼しそうな顔を浮かべていて。
腹が立つのを通り越して羨ましい。
魔人と人の違いだから仕方がないのだけれども。






灼熱感染







「暑い・・・」

ソファに寝そべり、アイスを銜えて呟く。
額に滲む汗が髪を微かに湿らせて肌に張り付かせる。
その不快感は鳥肌が立ちそうな程、気持ち悪くアイスを片手にタオルで汗を拭う。
しかし、拭った先から汗が伝い、全く意味を成さない。
嗚呼、本当にこの暑さが恨めしい。
それと同時に私の視線はある男に注がれた。
飄々とノースリーブで汗一つ流さずのんびりと情報を集める為にネットサーフィンに明け暮れているこの事務所の本当の主。
魔人である脳噛ネウロ。
魔人であるからこんな暑さは平気だと言っていたがそれをリアルに目にするとどうにも憎らしくくなる。
こっちは汗を流して暑さに蕩けそうだと言うのに。

「ねえ、ネウロ」
「何だ?

視線はディスプレイを見たままで返答を返すネウロに私は思い切って訴える。

「お願いだから事務所にエアコン入れて。暑い」
「却下だな。そんな金は無い」

あっさりと一刀両断された私の申し出。
がっくりと肩を落してこの際実費でエアコンを入れようかなと思案し始める。
すると、ネウロがひと段落したのか私の寝そべっているソファの向かいのソファに腰を掛けた。
さらりと髪が風に揺られるのを見て益々羨ましく思う。
地上ではこんな不快感とも縁がないなんて。
アイスを再び銜えようと傾けると数秒の間にやや溶けてしまったらしく棒を伝って液状化したアイスが流れてきた。

「あああっ・・・ティッシュ、ティッシュ」

慌ててもう片方の手で鞄を探り急いで拭き取ろうとする。
だが、ティッシュを探すのに夢中になっている私にネウロが寄って来て
何事だと視線だけ向ければ私の手首を掴み下から上へとそれを舐め上げた。
腕、手首、指へ。
そして、指先から爪を伝い、アイスを一舐めするとまだ液体が垂れている手首を丹念に舐める。
一瞬の出来事に硬直していると舌を這わせたままのネウロが視線だけを此方に向けて笑みを浮かべる。

「んなっ・・・!?」

そこで漸く我に返った私は顔を真っ赤にさせてティッシュを探していた片方の手で口元を覆う。
それでも隠し切れない紅く染まった頬と耳、潤んだ瞳。
しっかりとネウロはそれを確認して顔を上げた。

「ヤコがいつも食物を無駄にするなと言っていたから試してみた」
「食物を無駄にするなって・・・
それはヤコちゃんの理論で私の理論じゃ・・・それにネウロは食べても意味がないって・・・!」

動かす事すらままならなくなった私はただ言葉を紡ぐしかなかった。
だけど、ネウロは沸々と笑いを噛み締めながらまた再び自分の指定席へと戻っていってしまった。
私はただこの後を如何するべきかと溶ける一方のアイス片手に思うのだった。



暑さではなく熱さに感染していく、その舌先の温もりから。
(ほら、早く食せねば溶けるぞ。それとも舐め回されたいか?)
(ネウロが舐めたアイスをどんな顔で食べればいいのよ!?・・・エアコン、絶対に自費で入れよう。)