退屈過ぎる毎日に新たな刺激を与えたあいつ。
日常化し過ぎた平凡を打ち壊し、新世界を展開させた。
そんなあいつは人間じゃなかった。
だけど、そんなの関係ない。
本能へ全てを蹴り込んで在るがままに壊れてしまえば気にもなりはしなかった。
忠実リビドー
本当にそいつは唐突に私のテリトリーに入ってきた。
「我輩の名は脳噛ネウロ。貴様が気に入ったのでな。我輩のものにする事に決めた。光栄に思え」
不遜な態度でいきなり物扱いされて一瞬蹴り殺してやろうかと思った。
不法侵入で確実に今警察を呼んだらこの男を捕まえられるであろう。
だけど、何処までも深いエメラルドグリーンを見つめる内にそれがとても楽しそうな事に気付かされ。
私は不敵な笑みを浮かべて告げた。
「楽しませてくれるならお好きにどうぞ」
予想外だったらしいネウロと名乗った男は暫く目を丸くした後。
そりゃあもう年季の入った鬼畜な笑みを浮かべて私をその手で壊してしまうんじゃないかと思う位強く抱いた。
「中々面白い事を言う。いいだろう。存分に楽しませてやる」
その後は雪崩れ込む様にベッドに身を預けて獣の様に快楽を貪りあった。
舌先に残るざらつきを絡ませ合い、欲望に忠実に、衝動に身を任せて。
初対面がこんなのとか本当にロクでもない話である。
それから数ヶ月。
気が向いた時にふらりと現れるネウロは魔人だという事を知った。
最初は信じなかったんだけど本来の姿とか見せられたら信じざる得なくなってしまった。(でも、あれはあれで可愛い気がする。)
謎を糧として生きているらしいネウロは謎を求めて魔界からやってきたらしい。
そんなネウロが最初に地上に出て見掛けた人間が私だったらしく普通の人間とは違う異彩を放っていた私に興味を持ったのが全ての始まりだという。
何というか本当に自由気侭な魔人に私はむしろ感心してしまう。
「本当に物好きね。ネウロは」
「唐突に何を言うかと思えばそんな事か。今更だな。お前こそ物好きの変態ではないか」
全くもって失礼極まりない発言だがいちいち相手にしてちゃ高血圧でいつか倒れてしまう。
だから、私はさらりと聞き流し話がズレない様にする。
「勝手に言ってて下さい。まあ、確かに自分でもちょっと常識から外れてるなぁとは思うよ?」
だって、この関係が一体どういうものかもよくわからない。
セフレという程割り切った関係でもない。
かといって恋人といった関係でもないし、言うなれば不思議な関係だ。
それを甘んじて受け入れている私は確かに変わり者ではあるだろう。
が、相手が魔人なんだから恋人とかどうとかで量りきれないってのが最もな理由だか。(だって、魔人に愛なんてカテゴリーがあるのかどうか。)
「常識から外れていようが私は日常を壊してくれるネウロが好きだからね」
それは愛情だとか友情だとかそんな生温い感情ではなく。
こう、言い表されない様な何か・・・
「ふん。本当にお前は変態かつ変人だな。まあ、だからこそ選んだんだが。
しかし、考えても見れば生殖行為など無駄だと思っていたがお前とするのは中々具合がいい」
「生殖行為が無駄って事は魔人って生殖機能備わって無い訳?」
言われている内容が無茶苦茶ではあるがそれに恥じらいを持つ程の乙女ではない。
さらりと聞き流し、疑問に思った事だけ聞き返す。
彼もそれが特に気にも留めず会話を続ける。
「無いな。必要性が見当たらないからな」
「へー・・・じゃあ、本当にこの行為って非生産的なんだ」
「そうなる。だが、快楽を貪ると言うのもお前なら楽しめる」
それは褒め言葉なのかどうなのだろうかと思わず首を傾げる。
気にしたって答えは出ないからすぐに思考の隅に追いやってしまうけれど。
でも、それは特別だと自惚れてもいいのだろうか?
まあ、私にとってネウロは特別なのだが。(他に魔人なんて知らないしね。)
「結構私って特別扱いなんだ?」
「お気に入りの所有物と言った所だな」
「それ、嬉しくないわよ。言い方的に。でも、ネウロのお気に入りは非常に価値がありそうだからありがたく受け取っとく」
彼は謎以外にあまり興味を示さないから。
何事もポジティブに考えようと生殖行為後の気だるさに身を任せてそっと瞳を伏せる。
埋もれるシーツの波の中、触れ合う肌は酷く心地良くて眠りはすぐに訪れた。
現実と夢との境を行ったり来たりしていると不意にネウロは吐息交じりの笑みを浮かべて呟いていた。
きっとそれは独り言なのだろうけれどそれでもしっかり私の耳に入っていった。
「お前以外を抱く気にもならんし、関わる気にもならん。そう考えれば特別だろうな」
魔人はきっとそれがどんな感情なのか判らずに呟いたのだろう。
でも、それはきっとどこか愛と似ていてそうでないもの。
それよりももっと言葉に仕切れない愛以上のものなのだと想った。
だって、相手は魔人だ。
普通の人間の愛だのと一緒にしては失礼だろう。
だけど、きっと互いを特別に想っている心は同じなのだと身体を重ねて、交わす言葉で理解していた。
明確な愛の言葉など要らないから。
(想いを全てリビドーと共にぶつけて壊す程に。)
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