貴方の望みを叶えてあげたい。
だけど、貴方の望みを絶ってやりたい。
それは、決して、人として望んではいけないのだろうけれど。
それでも、私には貴方を失くす事など出来ないと思った。






背徳の祈り







「遠呂智、貴方はどうしても滅びを望むの?」
「何故、それを問う?

玉座に座る混沌たる存在に私は恐怖も抱かずに問うた。
私は人でありながら遠呂智に魅せられた一人。
それは、きっと他とは違う理由だけど、それでも、私は世界よりもこの人を選んだ。
愛して、しまったから。

「判っている癖にわざと聞くなんて意地悪」

不機嫌そうに頬を膨らましてそう告げれば遠呂智は笑みを浮かべて、私の頬を撫でた。
人とは違う肌であるがその触れる手は血が通い、生きている。
人でなくとも生きていて、温もりを感じる相手である以上、私の想いは正当なものだと思った。

「意地悪か、面白い事を言うな。人々を貶めて苦しめている我に向かって」
「言うわよ。私にとっては貴方も人と変わりないわ」
「永劫を生きようともか?」

永劫の生、それを遠呂智は憎んでいた。
何よりもそれを憎んでいた。
永久を孤独に生きる事がどんなに辛い事か私には判らない。
だけど、私ならきっと気が狂ってしまうだろう。
でも、逆に狂えぬのならばそれはもっと酷く辛い事なのかもしれない。
遠呂智はだから人と言う無限の力で終わりを望むのだと私は知っていた。
だから、尚更に愛してしまったのだ。

「ええ、だって、貴方は人よりも時に人らしいわ。だから、私は・・・」
「その言葉を言うでない」

厳しく咎める視線を投げられて私は少し身を竦ませる。
愛していようともそれを言葉にはしない。
それは私達の間にある暗黙の決まり。
完全に拒絶してくれたならばまだこの想いも捨てられたものを。
だから、私は貴方が人の様だと思うのだ。

「・・・判ってる。枷にはならない。だけど、私はそれでも祈ってしまうのよ」
「何をだ?」
「貴方の願いが叶わず、この混沌が延々と続けばと・・・」

何て、浅ましい祈りだろうかと自嘲を含ませて紡げば遠呂智はまた疑問を投げ掛けてきた。

「人間が愛おしいのにも関わらず何故、そう願う?」
「また、意地悪なの?言うなと告げた癖に・・・
結局、言葉にしてもしなくても貴方は知っているのでしょう?私の心を」
「さあ?どうであろうな」
「本当に、意地悪ね」

本当に、意地悪。
突き放すならもっと強く突き放せばいいのに。
でも、私はきっと突き放されようとも傍に居るのだろう。
この愛はもう捨てる事すら叶わない程、大きく育ってしまったから。
叶わぬ愛ならばいっそ殺してと願う程に。


人として有るまじき願いを蔑まれてもいいけれど。
(人の世の絶望かもしくは己の死か)
(どちらも愚考過ぎる願いだと理解はしている。それでも・・・)