「陛下!お願いですから無闇やたらと城下に勝手に出るのは止めてくださいっ!」
「あーもー!わかった!わかったからそう口煩く言うな!」
本当にわかっているのかこの金色の髪の王は。
近衛師団団長である・はこの国王陛下のおかげで苦悩の日々を送っております。
命を賭すのは貴方だから
「カーティス大佐!!」
私は廊下を猛スピードで駆け抜けて陛下の幼馴染であるジェイド・カーティス大佐の下を尋ねた。
中に入ると陛下の姿はなく彼が淡々と仕事をしていた。
そして、私を見るなり「またですか?」と尋ねた。
「ええ・・・他の近衛兵に任せるとすぐ行方不明になるんですから・・・」
「しかし、それにしては今回焦っているようですね?」
さすがネクロマンサーと名高い軍人だけはある。
私の動揺などすぐ見破ってしまった。
洞察力も素晴らしいものだと関心してしまった。
いつもならさほど心配はしないのだが今回ばかりはそうも行かなかった。
「そうなのです。実は今国内の不穏分子・・・
つまり、陛下失脚を目論む輩がいると言う明確な情報が近衛師団の情報部に入ってきたのですよ」
「それでここ数日、小姑のように陛下を叱り付けてたんですねぇ・・・」
「小姑とは失礼ですね。カーティス大佐」
「これは失礼」
謝っているのか怪しい。
本当に食えぬ男だ。
そう思ったも束の間。
すぐさま本来のすべき事を思い出し、部屋を退室しようとする。
「カーティス大佐!もし陛下が来たら首根っこひっ捕まえてでも王宮に連れ帰ってください!」
「はい。わかりました。手加減無用で連れていきます」
「お願いします。それでは失礼」
退室したの後姿を見届けたジェイドは溜息を吐いた。
「全く、陛下も本命には捻くれた愛情表現をするんですから困ったものです」
そう、意味深に呟くジェイドだった。
その頃、はすぐさま城下へと向かった。
「本当にどこにいったのだ?あの人は・・・・」
小一時間ほど探しているが見つからない探し人に苛立ちを感じながらも必死に探索する。
そんな時だった。
「きゃぁあああ!!」
小さな悲鳴だったが確かに女の悲鳴が聞えたは急いでその場所に向かった。
その場所に辿り着くと女性を庇う様にして立ているピオニーの姿を確認した。
目の前にいるのは数人の刃物を持った黒尽くめの男たちだった。
「国王陛下・・・御命頂戴する!!」
「はっ!!やれるもんならやってみろ!!」
そんな声が聞えたかと思うとピオニーへと男たちが刃を向けた。
だが、その刃がピオニーに届く事はなかった。
「何!?」
数人の刃を止めた人物がそこには居た。
そう、そこに居たのは自らの剣と鞘で数本の刃を止めただった。
「読みが甘かったようですね・・・ここからはこの近衛師団長の・が相手をしましょう」
「・・・!!」
「全く陛下。だから言ったでしょう。勝手に城下に出るなと。
まあ、とりあえずはご無事で何よりです。そちらの後ろの女性も無事ですね?」
「は、はい!!」
無事を確かめるとはすぐさま受け止めていた刃を全て跳ね返した。
「たぁあああああ!!!!」
「ぐっ!!貴様があのヴァルキリアと呼ばれる近衛師団長か!!!」
するとはさきほどとは剣の構えを変えて敵を見据えた。
「その通り。私の名も知れ渡るようになったのですね」
「だが、この人数で無傷で帰れると思うなよ!!」
そういうと男たちが一斉にに攻撃を仕掛けた。
しかし、全ての攻撃を舞うように軽やかに避けていく微笑を浮かべた。
その姿はまさしく戦女神。
誰もがそう思った。
「全てを燃やし尽くせ。緋凰絶炎衝!!」
「ぐぁあああっ!!」
次々と倒れていく敵。
「すごいですわ・・・」
「さすが俺の近衛師団長」
ピオニーは満足気にそう微笑んでいた。
それをしっかりと聞いていたは溜息をついた。
しかし、ふと気を抜いた途端、ピオニーの元へと一人の敵が駆け抜けた。
「死ね!!!」
「きゃあああっ!!」
「!?陛下!!」
気づいたがすぐさまに走り出し、ピオニーの前へと滑り込んだ。
ザシュッ!!という肉を裂く嫌な音が響く。
「!!!」
ピオニーが叫んだ。
そう間一髪のところでが飛び出し、ピオニーを庇い脇腹を浅いながらも裂かれたのだ。
「くっ・・・」
苦しげな吐息を漏らす。
場所が悪かったのか激しい出血ながらも気力で必死に意識を留めた。
そして、はすぐさまその敵の剣を奪い去り剣で貫く。
「かはっ!!」
その後は、修羅のような速さで全ての敵を殲滅した。
「はぁ・・・はぁ・・・これで終わりのようですね」
戦い終え、剣を直すとはふらりとバランスを崩し膝を突いた。
出血による貧血だろう。
ピオニーはそんなを見て急いで駆け寄った。
「大丈夫か!?!!」
「陛下、ご無事ですか?」
「俺は何ともない!!お前がさっき庇ったんだろうが!!」
「そうですね・・・大丈夫ですよ。この程度の傷」
朦朧とする意識の中、必死に立ち上がったはそう呟いた。
「令嬢。貴方様もご無事のようですね。
すみませんが陛下はこれから私と王宮に戻っていただきます。
お送りできぬ事、ご容赦してくださいませ。申し訳ありません」
「いえ!!私の事など!!陛下、師団長様と共に早く王宮へ!!」
「ああ・・・悪いな。また今度埋め合わせはする!」
「いえ・・・どうかお大事に・・・」
そう令嬢が告げて立ち去った後、の意識はぷっつりと途切れた。
「ん・・・・ここは・・・・」
ゆっくりと瞳を開けると何やら煌びやかな装飾が見えた。
横に視線を移してみるとそこには心配そうな表情を浮かべるピオニー達が居た。
「目覚めたんだな・・・よかった・・・・」
「陛下・・・?それにカーティス大佐、フリングス将軍まで・・・」
珍しい面々には驚き起き上がろうとした。
しかし、脇腹に走る鈍痛にそれはかなわなかった。
「無理をしてはいけませんよ。気絶する位血を流すわ。その傷を広げる勢いで戦うなんて無茶をしたんですからねぇ〜」
「すみません・・・私の腕が未熟なばかりに・・・もしかして、王宮まで陛下が運んで下さったんですか?」
「ああ。俺が迷惑をかけてしまったわけだしな・・・
それにお前の腕が未熟だったわけじゃない。今回は勝手に抜け出した俺の責任だ」
そう言って自分を責めるピオニーに追い討ちをかける様にジェイドは毒を吐いた。
「本当にそのとおりですよ。陛下。もしあそこでに会わなかったら。
もしかしたらこの世に居なかったかもしれないんですからね。今回の一件でそれは思い知ったでしょう?」
「うっ・・・」
「カ、カーティス大佐・・・」
苦笑するようにフリングス将軍がそう呟いた。
だが、ジェイドの攻撃は止まらない。
どうやらよっぽど怒っているらしい。
「第一、陛下は危機感がなさ過ぎです。一国の王ともあろう肩がぶらぶらと城下に出て。
どうなるかぐらい想像できるでしょう?それも一方的に歪んだ愛情表現で心配かけて」
その言葉に傍観していたが首を傾げて尋ねた。
「歪んだ愛情表現・・・?」
「うわぁっ!!このバカジェイド!!テメェ、何勝手にいってんだ!?」
「誰がバカですか。親切に陛下の恋の手助けをしてあげているのでしょう?
さあ、フリングス将軍。私達はそろそろ職務に戻りましょう。バカな陛下はほっといて」
「は、はあ・・・?」
そういいながら二人は立ち去って言った。
背後でピオニーの叫び声を聞きながら。
二人っきりになったとピオニーは終始無言だ。
そんな沈黙を破ったのはだった。
「陛下、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「さっきのジェイドの言葉以外ならいいいぞ」
先手を打たれたは微かにちっと舌打ちをしたがすぐに質問した。
「何故、私は軍の病院ではなく王宮で寝ているのですか?」
「俺が傍に置いておきたかったからだ」
「それは何故?」
「それは俺がお前の事を・・・って何誘導尋問してる!?」
慌てて口を押さえるピオニーには苦笑した。
「していませんよ。全く・・・まあ、良いでしょう。
問い詰めるような事はしません。陛下がお話したくなったらしてください」
それだけを言うとは「もう少しだけ寝ます」と言って反対側に寝返りを打った。
それからしばらくしてピオニーがぼそっと呟いた。
「ったく俺は何してんだ・・・好きな女も護れないなんて情けない・・・
悪かったな。・・・今度はお前の言いつけ護るからな・・・ゆっくり休め」
愛おしげにそう呟くピオニー。
まさかに聞かれているとも知らずに。
「(全く素直じゃないんですから。まあ、私も人の事言えませんが・・・
ただの仕事であそこまで命張って貴方を護るわけがないでしょうに・・・意外に鈍い御人。)」
心の中でそう苦笑したは今度こそ眠りにつこうと本格的にベッドへと身を沈めた。
なかなか素直になれない国王陛下と近衛師団長のある日常のお話。
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